君だけを・・・
どうして好きかなんて考えたことすらなかった。ただ、心から、気持ちが・・・好きと言う気持ちが溢れている。……そんな感じ。
それは突然の誘いだった。
「遊園地?」
「そう、親父が券くれたから…行かないか?」
はっきりいって、とても嬉しかった。ヤマトを好きになってから、自分からはなかなか誘うことが出来なかったから。それは、どう誘えばいいのか分からなくなってしまったから…。
「俺は全然良いけど…って言うかむしろ嬉しいけど、良いのか俺で、空とかじゃなくて良いのか?」
自分で行って後悔する。折角誘ってもらったのに、自分から空の名前を出してしまった。空とヤマトは中学に入ってから付き合っているらしい。はっきりしないのは嫌いな太一だが、聞くに聞けない。聞いて落ち込むのが目に見えているから。
「空?…太一は行きたくないか?」
「ちっ、ちがう!行きたくないわけじゃないって、さっきも言ったろ。ただ、お前が俺とで良いのかなって思って。」
「あ?・・あぁ、いいから誘ったんだぜ。じゃあ決まりな。今度の日曜日、夏休み最後だからって部活なかったよな。朝9時にむかえに行くよ。」
「えっ、いいよ。どうせなら、駅とかにしようぜ。その方が速くいける。」
「そうだな。じゃあ、9時に駅前の所で。」
「あぁ、わかった。じゃあ、また日曜日に。」
「じゃあな。」
そういって、自分の家へと帰っていった。それぞれの気持ちを抱きながら。
日曜日、まるで子供みたいに眠れなかった太一は、仕方なく早めに待ち合わせ場所へと向かった。
案の定、ヤマトは来ていなかったが、約束の時間よりも早い時間にヤマトは来た。まぁ、そのおかげで、待つ時間が短くなったのだが…。
「早いな。」
「そっちこそ。」
簡単な会話を交わしながら電車へと乗り込んだ。夏休みももう終わりとあって、全体的に空いていた。
遊園地のほうも空いていて、ならぶことなく中へ入れた。
「すんげぇ、空き空き!」
遊園地が大好きな太一は、すごくはしゃいでしまい、後ろにいたヤマトに笑われてしまった。
「なっ、なんだよ。笑わなくても良いだろ。」
「ごめん、でも喜んでもらえて嬉しいよ。そんなに喜んでもらえると連れてきたかいが有ったってもんだ。」
ヤマトの笑顔に、つい照れてしまった。
「どうした?」
急に俯いてしまった太一を、心配そうに覗き込んできた。
「なっ、なんでもねぇよ!それより早く乗ろうぜ!」
照れた顔を隠すように走り出し、少し離れた所でヤマトを呼んだ。
ヤマトは、「そんなに急がなくても、乗り物は逃げねぇよ。」などと言いながら太一の行く所へついていった。
乗り物に乗り始めて約3時間。太一は、木陰のベンチに腰掛けていた。
「気持ち悪〜。」
「あんだけ絶叫系乗りまくってたら当たり前だ。それに、お前寝不足なんじゃないのか?」
鋭い所をつかれて俯いてしまった。
「――――だったんだもん・・・。」
「えっ、よく聞こえない。」
「だって!…楽しみだったから、なんか子供みたいに興奮しちゃって…。」
そういう太一の顔は見る見るうちに赤くなっていった。
「そんなに楽しみにしててくれたなんてな。嬉しいぜ。」
予想もしなっかたヤマトの言葉に、また顔を赤くしてしまった。それよりも、ヤマトの顔が照れていたように見えたのは、やっぱり、少しでも望みがあるなんて期待をしているからなんだろうか。そんなことがある筈がないのに…。
「もう1時か。そろそろ飯にしようぜ。」
「あぁ。俺、おなかぺこぺこ。」
昼食も済ませ、午後からは軽い乗り物や、アトラクションゲームなどをやった。運動神経のいい太一や、そこそこのヤマトだったため、二人はいつのまにか両手一杯の縫いぐるみを抱えていた。
「なんか、半端でない量になったな。」
「お前はどうする?それ。」
とりあえずコインロッカーにでも入れとこうという太一の案で、いったん二人は入り口のコインローっカーへやってきていた。
「ん?気に入ったヤツ以外はヒカリにやる。気に入ったヤツは部屋にでも飾るさ。けっこう俺、こういうの好きだからさ。」
「なるほど。でも、家はさすがにタケルは喜ばないだろうな。どうすっかな、これ。」
「空や、ファンの子にやったら?絶対喜ぶぜ。」
「まぁ、それしかないよなぁ・・・。」
朝から、太一の胸の奥で何かか締め付ける様な痛みが走る。原因なんか分かっていた。ただただ、空や他の女の子に嫉妬してただけなのだ。
「これで少しは手が空いたな。で、次は何に乗る?」
「えっ、なに乗ってなかったっけ?」
「そうだなぁ・・・お化け屋敷と観覧車かな。」
「げっ!俺お化け屋敷苦手。作り物って分かっててもあれだけは嫌。」
太一は行きたくないと主張するが、ヤマトの顔が何かたくらんでいるように見えた。
太一がすごく嫌な予感を感じ取った時、もうすでに遅かった。
「それじゃあ、なおさら入らなくちゃな。ココのは『お化け屋敷が嫌いな人』にお勧めしたいぐらい怖いらしいからな。」
なんて笑いながら言っているヤマトは、もうすでに太一の腕を取ってお化け屋敷へと向かっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
このお化け屋敷は、精神的にもきついくらい長いルートであった。やっと半分くらいきた辺りで、太一は絶えきれなくなり、その場で顔を隠すように蹲ってしまった。
「太一…大丈夫だって。」
「だから…嫌だっていったんだ。」
太一は半分涙目になりながらも、ヤマトに訴える。自分は嫌だったんと。
「悪かったって。でも、入っちまったもんはしょうがないだろ。ほら、腕につかまって良いから、目つぶって歩けよ。」
ためらいながらも、この怖さに耐えられずにヤマトの腕につかまった。目は閉じたまま開けられなった。それは、お化けが怖いだけではないことを太一は知っていた。太一の心臓はもう張り裂けそうなほど脈打っていたから。
「あのさぁ、俺、太一に聞いて欲しいことがあるんだ。」
「えっ!?」
「実は・・・」
「ごめん!後で聞くから速く出ようぜ。」
「あ、あぁ。」
そういって先を急いだ。
もちろん、お化けが怖いだけじゃない。ヤマトの言葉が怖い。赤いこの顔を見られるのが怖い。今にも張り裂けそうな心臓の音に気付かれるのが怖い。
…もしかして…と、考えてしまう・・・自分が怖い。
「やっと終わったぁ〜!」
色んな気持ちに押しつぶされそうになって、本当に疲れてしまった。
どちらとも何も話さないので、とりあえず、唯一乗ってない観覧車へと乗り込んだ。今日は、夏にしては少し早い日暮れを迎えていたので、さぞかし夜景は綺麗だろう。
「ヤマトさぁ、どうして今日、俺を誘ったんだ?」
先に口を開いたのは太一だった。太一は、胸の奥の苦しみに耐え切れなくなってきたのだ。
…ただ…今は真実が知りたくて…。
「どうしてって・・・。」
「俺が遊園地好きなの思い出したから?それとも空に断られたから?何か企んでるから?」
「何を言ってるんだ!?どうしたんだ?なんか変だぞ。」
分かってもらえなくて当たり前なのに、すべてが悲しく、今まで押さえて来たものがすべて出て行くかのように、涙が溢れてきてしまった。もう太一には、この涙を止める術は分からなかった。
「どっ、どうしたんだよ。」
「お願いだから、優しくしないでくれよ。期待させる様な事しないでくれよ。」
「太一、どういう意味だよ。」
「ヤマトが好きだから・・・これ以上、空がいるヤマトを好きにならせないでよ。」
すごく自分勝手なことを言っているのは分かっていても、もう太一は押さえる事すら出来なかった。
「誘った時から思ってたけど、何で空が出て来るんだよ。」
「何で分かんないんだよ。だって、ヤマトは空と付き合ってるんだろ!!?」
「何でそうなるんだ。確かに空とは仲がいいが、それはお前も一緒だろ。」
「じゃあ…。」
自分の勘違いと、叫んだことを思い出し、急に恥ずかしくなってきた。
「それより、さっき言った、お前が俺を好きだって言うの本当か?」
「そっ、そうだよ!俺はお前が好きだよ。」
もう、やけくそ状態だった。『こんな事、言っちまったら、もう終わりだ。』などと考えている太一は、また、涙か止まらなくなってしまった。
そんな太一をヤマトは力ずよく抱きしめた。
「頼むから、泣くなよ。」
ヤマトが動いたため、ゴンドラは少しゆれていた。
太一は、自分の置かれている状態を理解できず、ヤマトの腕の中で固まってしまった。
「俺も…、太一が好きだ。」
「・・・嘘だ。」
耳に囁かれた言葉。あまりにも信じがたいことで、からかわれてるんではないかとまで疑った。
「嘘じゃない。本当に…あの夏から、ずっと好きだった。」
『お願いだから、からかうのは止めろよ!』そう叫ぼうとした瞬間、自分の唇が塞がれていることに気付いた。
あまりの出来事に、呼吸の仕方を忘れたかのように、太一は息を止めていた。そう気付いたのは、ヤマトの唇が離れていってからだった。
「これでも信じられないかよ。もちろん冗談なんかじゃないからな。」
あまりの驚きに、止まらなかった涙も吹き飛んでしまった。
「……俺も、ヤマトが好きだ。」
驚いてる割には、冷静に気持ちを伝えてくれる太一に苦笑いをしながら、もう一度キスをした。
結局、夜景も見ることなく観覧車から降り、そのまま荷物を持って遊園地を後にした。
「本当はあのチケット、親父に無理やり頼んだんだ。それで、今日伝えるつもりで・・・。」
「ふーん。じゃあ、空とは付き合ってなかったんだ。」
「当たり前だろ。それに、空には他に好きな奴いるぜ。」
「えっ、そうなんだ。それこそ初耳だ。」
ヤマトから、本当のことを聞きながら、二人はとりあえず、ヤマトの家へ向かっていた。
「俺今、すごい幸せ。」
本当に幸せそうに告げてくる太一が、ヤマトは愛しくて仕方がなかった。
「また、行こうな遊園地。今度はデートとして。」
「今日のもデートだろ?気持ちが通じてなかっただけで。遊んで、楽しんで、最後にキスしてさ。」
そんなことを、照れ笑いしながら言われてしまったヤマトは、顔が真っ赤になってしまった。
「おまえなぁ・・・。」
「それより、縫いぐるみ。他の人になんてあげるなよ。1個でもあげたら、浮気とみなすからな!」
「えっ、でも、あれは、お前が提案したんだろう。」
「…だって、そんな事言える立場じゃなかったじゃん。」
「これからは言ってくれるだろ?」
「あたりまえ。俺、そんなに優しくないもん。」
太一は、気付いていないのだろうか?さっきから言っている言葉が、ヤマトをどれだけ幸せにしているのか。
どうして好きかなんて考えたことすらなかった。ただ、心から、気持ちが・・・好きと言う気持ちが溢れている。
気持ちが通じあって、幸せという気持ちを貰った。………あなたに。
この気持ちが大切なんだと今は思う。

皆与さま、本当に有難うございますvv
私一人で楽しむのが勿体無いので、無理を言いまして、サイトへのUPの許可を頂きました。
凄い初々しい二人に、クラクラですよ。
初心に返って、私も、こんな初々しいカップルを書きたいですね。
本当に、素敵な小説を有難うございました。
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