あんなとこ見たくなかった。
日常的だって頭で解っていても、今まで一度も見たことはなかった。
ヤマトが告白される所なんて……

愛するが故に……

 ヤマトと女子生徒の居た校舎裏から全力疾走で逃げてきた太一は、胸を押さえながら、近くにあった樹の下に腰を降ろす。
「ヤマトはオレのこと好きなんだよな?」
 答えてくれる人はいないけど確認するかのように口にする。そうしないと自分とヤマトの関係が嘘のように思えてしまうから……
 だけどヤケにヤマトの顔が嬉しそうに見えたのは、気のせいなのだろうか?
 頬を染めて俯く彼女に優しい眼差しを向けたのは気のせいなのだろうか?
 自分を好きだと言ってくれたヤマトが、今はなんだか随分遠くに感じる。自分はこのまま何事もなかったかのようにヤマトに会えるだろうか?
 なんとか自分を取り戻し、ヤマトと待ち合わせをしている教室に向かうと、すでにヤマトが待っていた。
「どこ行ってたんだよ太一?」
「ああ〜ちょっと、ヒマだったからブラブラしてた」
「学校で?まあいいや、結構待たしちまったもんな」
 太一に告白現場を見られたことのなんて気づいていないヤマトは、太一の言った言葉を信じて、自分と太一にカバンを持って立ち上がる。
「あっ!!自分で持つよ」
「いいよ。待たせたお詫び。なんならジュースでも奢ってやろうか?」
 カバンを取ろうとする太一を避け、ウインクをしながら聞いてくるヤマトに、さっきのは見間違え何だろうと言い聞かせながら、ヤマトと一緒に教室をあとにした。
 その日の夜に事件は起こった。夕飯を済ませお風呂から上がった太一はなり出した電話を、何の躊躇いもなくとった。
「はい、八神です」
『あんたなんか大ッ嫌い!!なんでいつも石田君の側にいるのよ。石田君は私のものよ。あんたなんかに絶対に渡さないんだから!!』
 用件を早口で言ったあとガチャンと切られる。電話口からは通話の切れた音だけが聞こえる。
 今なんて言ったのだろう『イシダクンハワタシノモノヨ』?なぜそんなことを言う?ヤマトは彼女の告白に答えたのだろうか?
 イヤなことが頭を駆け巡る。ずっと受話器を握りしめたまま立っている太一を、怪訝に思ったヒカリが声をかけるが何も反応はしない。
「お兄ちゃん?お兄ちゃん!!」
 揺さぶっても反応をしない、覗き込んだ瞳は何も写し出してはいなかった。
「お母さん!!お兄ちゃんが!!」
 尋常でない兄にヒカリは母親を呼び、太一の握りしめた受話器を何とか離して救急車を呼んだ。
 夜中に救急車のサイレンが響きヤマトは何事かと窓を開け覗くと、救急車はちょうど正面のマンションに停まり、救急隊員が誰かを運んでいる。
「……太一?」
 それは見間違えようがなく太一であり、ヤマトは何もかも放り出し外に駆け出した。
「ヒカリちゃん?」
 ヤマトが下に着いた時にはすでに救急車は出たあとで、呆然と立ちすくむヒカリに声をかける。
「……ヤマトさん。お兄ちゃんが……」
 止め処なく涙を溢れさせるヒカリを抱き締めると、ヤマトは今日の帰りに太一の変化に気づかなかったことを悔やみ、そして太一が無事でいることを祈った。

 次の日。学校が終わったヤマト達選ばれし子供達は病院の前に佇み、中に入るのを躊躇っていると、入り口からヒカリがやってきて裏庭へと連れて行かれる。
「ヒカリちゃん?太一の様子はどうなの?」
 誰しもが聞きたかったことを空が口にすると、ヒカリはその瞳から大粒の涙を流す。
「ヒカリちゃん!!」
 タケルが駆け寄ってその小さな身体を抱き締める。その様子に誰もが最悪の事態を考えてしまい、顔色が悪くなる。ヤマトなんて青を通り越して土気色になっている。
「眼は覚ましたんです……だけど……」
「だけど?どうしたんです?」
「光子郎落ち着いて!!それで?眼を覚ましたんだけど、どうしたの?」
 光子郎が鬼気迫らん勢いで問いだたそうとするのを、丈が間に入ってとめヒカリに目線を合わせて優しく問いただす。
「覚えていないんです」
「……それじゃあ、記憶喪失?」
 ヒカリを抱きしめたタケルが恐る恐る聞き返すと、ヒカリは少し考えてから口を開く。
「全く覚えてないってことじゃなくて……」
 ヒカリはヤマトの方を向いて、一呼吸置いてから……
「ヤマトさんのことだけ、覚えてないんです」
 ヒカリの放った言葉はヤマトの胸に突き刺さり、大きな穴をあける。

ヤマトサンノコトダケ、オボエテナインデス……

 フラリと身体のバランスが崩れ倒れると思ったら、光子郎と丈がヤマトを咄嗟に支え、地面に倒れるのを免れた。
「ヒカリちゃん。それじゃあデジタルワールドのことは……」
「覚えてます。ホントにヤマトさんに関する記憶だけが無くなってるんです」
 ヒカリの話によると、ヤマトのとった行動はすべて他の誰かにすり変わっているようだ。意見があわなくて仲違いしたのは丈だったり、光子郎であったりする。最終戦で共に闘った仲間は空になっており、ジョクレスパートナーにいたっては太一には居ないということになっている。
 その事実を知ったヤマトは光子郎と丈に支えられながらも、太一の元へ行こうとするのをヒカリが止める。
「お兄ちゃんヤマトさんの話をすると、気分が悪くなってしまうんです。酷い時には吐いてしまうくらい。だからもしヤマトさんに逢って余計に酷くなってしまったら……」
 その先を言えずタケルにしがみつくように、抱きしめ小さな嗚咽を漏らすだけだった。
「……ヤマト。ヒカリちゃんの言う通りよ。今の太一には貴方の名前を聞くだけで体調を崩してしまうなら、まして逢うとなると何が起こるか解らないわ」
 ヒカリの代わりに空が続きを言ってヤマトを行動を牽制する。空とヒカリの両方に言われヤマトは、光子郎と丈の手を引き剥がしてその場に崩れる。
「兄さん……」
 悔しそうに地面を殴るヤマトを見て、タケルはヒカリを抱きしめながら空を仰いだ。
 取り敢えずヤマトは病室の外で待機をして、他のメンバーは中に入って行く。意外に元気そうな太一であったので記憶喪失は間違いじゃないのかと疑ってしまうが、太一の口から全くヤマトと言う言葉が出ない辺りホントなのだと思わずに入られない。このメンバーでいるのにヤマトが居ないなんて太一が不思議がらずにいるのだから……
「それじゃあ、太一大人しくしてるのよ」
「解ってるよ。心配かけて悪かったな」
 長い間話をすると太一が疲れてしまうと言うこともあり、メンバーは早々に退散をする。今夜も太一は病院で泊まり明日の検査で以上がなければ退院となる。
 病室を出るとヤマトは疲れた表情でみんなを見る。たった数十分しか待っていないのに、まるで何年も待っていたかのように見受けた。そんなヤマトを光子郎と丈は両側で支えながら病院をあとにし、取り敢えずヤマトの家に一同は向かった。


 ヤマトはメンバーに家に送ってもらい、ソファーで太一の事を考える。自分の事を忘れてしまい、あまつさえ自分の事を聴かれると体調を崩してしまう。そのことがどうしても信じられなかった。幾多の苦難を乗り越え強い信頼関係を築き、そして恋人として愛を育んできたのに……
「なんで俺の事を忘れてしまうんだ太一!!」
 逢うなと言われたがどうしても逢って真実を確かめたい。ホントに太一は自分の事を忘れてしまったのだろうか?
 居ても立っても居られなくなったヤマトは、家を飛び出し病院へと向かった。
 面会時間の過ぎた病院はひっそりとしており、人目に付かないようにこっそりと中に入り、太一の病室を目指す。幸わい太一の病室は個室で、しかもナースステーションから離れており、病室に入ってしまえばナースコールさえ押されなければ気づかれることはない。
 太一の病室の前に佇み震える手でドアをノックする。すぐさま返事が帰ってきてドアを開け中に入る?
「……太一」
 小さく名前を呼ぶと太一は首を傾げ、困ったように「誰?」と答えるので、微かに持っていた希望が跡形もなく崩れてしまう。
 一歩ずつ太一の方に近づいて行くと、だんだんと太一の顔色が悪くなり手で口元を押さえる。
「うぐっ……」
 太一の異変に気づき駆け寄って、近く似合った手桶を太一の前に出すと、そこに胃液を吐き出しながら太一はナースコールを手に握る。
「頼む押さないでくれ」
 太一の手の上から自分の手を乗せ、ヤマトは空いている方の手で太一の背中を擦りながら懇願する。
 ヤマトのおかげで幾分楽にはなりながらも、1人の時よりも明らかに体調がおかしいので、ナースを呼びたい所なのだが、悲痛な表情で言うヤマトを見て指の力を抜く。ヤマトも太一の行動に安心をして手を離し、近くに合ったイスを持ってきてベッドの横に腰掛ける。
「こんな時間に来て済まない。どうしても太一と話がしたかった」
「はな……し」
 まだ辛そうに咳き込んでいる太一の背中を擦りながら、どうしたら良いのか解らないが、ナースコールをする訳にもいかず太一が少しでもよくなるように、背中を擦った。
「も、だい……じょうぶ」
 気持ち楽になった太一は背中を擦るヤマトの手を制して、改めてヤマトの顔を見る。
「えっ…と……もしかして石田ヤマト?」
 確認するように聞いてくる太一に、ヤマトは小さなため息を吐く。
「本当に俺の事を覚えてないんだな」
「……ゴメン」
 ヤマトのため息にしょんぼりしながら謝る太一に気にするなと言って、イスから立ち上がり太一を抱き締める。
「ちょっ……!!」
「んで、……だよ」
「えっ?」
 耳元で囁かれても聞き取れないヤマトの呟きに、太一は聞き返すがヤマトはそれ以上は何も言わずにただ太一を抱き締める。
「……?」
 なんだか懐かしい感触に戸惑いながらも太一は、気分の悪さも忘れてヤマトのされるが侭になる。
 どれだけそうしていたのだろう……時間にすると数分も経っていないかも知れないが、二人には何時間もこうして抱き合ってるように思えた。
 ゆっくりとヤマトが太一から離れると、太一は安堵のため息を吐き身体の力を抜く。
「太一。少しずつでもいいから俺の事を思い出してくれ」
 そう告げて太一額にキスをして、ヤマトは病室を後にする。残された太一は何故だかヤマトが自分から離れたのが悲しくて、止めどなく涙を溢れさせていた。

 次の日太一は簡単な検査をして、異常がなかったので退院となった。しかし暫くは家で安静にしていた方が良いと医師の診断で、大事をとって2・3日は学校を休む事になった。
 ヤマトの事を忘れた以外は普通だと思っていた太一だったが、家に帰っていつもと変わらない生活をしていたと思っていたが、一つだけおかしなことが合った。それは電話が鳴ると酷く怯えるのである。たとえ目の前で鳴ろうとも手を延ばすことなく、逃げるように部屋に行ってしまう。
 不安に思った母親が医師に相談をすると、もしかすると電話が切っ掛けで記憶障害が起こり、無意識の内に電話に出ることを拒否しているかも知れないとのことだった。
 その時の電話がなんだったのかは太一も記憶にはなく、ヒカリは皆に相談をしてその電話の相手を探すことになった。とはいってもどこの誰なのか、男か女なのかも解らない状況で探し出すというのは至難の技である。
「ただ闇雲に探しても意味がないと思うので、一度整理してみませんか?」
 光子郎の意見に一同は賛成をし、太一を除く選ばれし子供達は休日を利用してヤマトの家で相談を始めた。
「どうしてヤマトさんの事だけ太一さんは忘れてしまったのか、ここが一番重要だと思うんですよ」
 ヤマトが入れた紅茶を飲みながら光子郎は、難しい顔で皆に言う。
「……なにかヤマト絡みの事でショックを受けたとか?」
「ヤマト絡み?」
 丈の意見に空が首を傾げる。
「だって1人だけ忘れるってのは普通じゃ考え難いことだろ?ということはヤマトが何かしたか、ヤマト絡みで何かやられたかの2つだと思うんだ」
「兄さん。太一さんとケンカでもした?」
 チラリとヤマトの方を見ると、ちょっと考えてからヤマトは首振る。仮にヤマトと太一がケンカでもしたならば、なんらかの形でメンバーも被害を被るので、それがないということはケンカはしていないということになる。
「それでしたら、ヤマトさん絡みで何か合ったかも知れないって事ですね」
「でもヤマトさん絡みってどんなことです?」
 ヒカリのもっともな意見に光子郎は、にっこりと微笑む。
「ヤマトさんといえばアレしかありませんよ」
「……年中行事ね」
 学校で毎日のように告白されているヤマトを、空達は『年中行事』と言ってからかっている。
「それじゃあ、ヤマトに最近告白した子を探し出せば、原因が解るかも知れないって事だね」
「そうゆうことです」
 ヤマトを除く中学生3人の間でドンドンと話が進んで行き、ヤマトとタケル、ヒカリは手持ち無沙汰になっている。
「ねぇ、僕たちは何をすれば良いの?」
「タケル君とヒカリちゃんは、太一の側で誰か接触してくる子がいないか見てて欲しいの」
「俺は?」
「ヤマトは下手に動くと、また太一になにか去れるといけないから、待機しること。大丈夫僕たちが頑張って探してみせるよ」
 項垂れるヤマトの肩を丈が軽く叩いて励まし、他のメンバーもヤマトに力強く頷いてみせる。
「ありがとう……」
「あら?お礼なんていいのよ。あんた達二人がイチャついてないと、なんか調子が狂うのよね」
「そうそう、兄さんと太一さんって、二人でワンセットだからね」
 空やタケルがからかうとヤマトは真っ赤になり、皆が笑いその場が少しだけ和やかになった。

 それから学校に出てきた太一とヤマトは少しだけ距離を置き、光子郎と空はヤマトに過剰な恋心を持っている子達を割り出して行き、丈はライブの追っかけの子を割り出している。タケルとヒカリは毎日のように太一と登下校をし、周りの様子を伺っている。
 何も知らない太一は急に忙しそうにしているみんなと、忘れてしまったヤマトの事が気になるが、誰にも何も言うことなくヒカリとタケルと一緒に帰る毎日を続ける。
 太一がヤマトの事を忘れて一週間が経った頃。ヤマトの周りで変化が起こる。ある女の子が自分はヤマトの彼氏だと言わんばかりにヤマトに付きまとっている。
「……彼女は2年C組の伊藤美雪。この学校で人気のある女子生徒ですね……まあ、本人はヤマトさんにかなり惚れているようですが……1年の時にヤマトさんと太一さんとは同じクラスでしたよね?」
 いつの間に調べたのか光子郎がパソコンのデーターを読み上げて行く。
「ああ、たしか出席番号で一緒だった。俺が太一と話してるとよく割り込んできてムカついてた奴だ」
 その時の事を思い出したのかヤマトは苛つきながら言う。
「女子達の間でも結構噂になってるわよ。顔は可愛いんだけどかなりいい加減なこと言ったりするから、あまり関わり合いたくない子ね」
 空は光子郎の調べたデーターに付け加えながら、一つ気掛かりなことを口にする。
「あと……最近太一の様子がおかしいのよ」
「おかしいとは?」
「うん……元気がないってのもあるんだけど、覇気がないって言うか……」
 上手く説明できない空であったが、ヤマトと光子郎は空の言いたいことは十分に理解できた。
「おそらく、ヤマトさんの事を忘れてしまったからでしょうね」
 光子郎は何かデーターを入力し、それを二人に見せ説明を始める。
「ヤマトさんに関する記憶を無くしてしまったため、上手く感情がついていかないんでしょうね。現にヤマトさんを見ると倒れることはないにしろ気分が悪くなるといった症状が出てますから……」
「でも、最近は太一の側に行ってないぞ?それなのに……」
「それはきっと、ヤマトさんを忘れてしまっても、心のどこかでヤマトさんを求めてるからじゃないですか?」
 光子郎の言葉にヤマトは嬉しさが込み上げてくる。自分を忘れてしまっても無意識で求めてくれる。そんな太一が愛しくて一刻も早く記憶が戻って欲しいと願う。
「あのままだと近い内に倒れちゃうかも知れないから、急いで太一の記憶を戻さないと……」
「確立は五分ですが方法はありますよ」
 光子郎はパソコンのディスプレイを自分の方に戻し、新しい画面を出し手から再び二人の方を向ける。
「とりあえず……」

「伊藤美雪さん?」
 数人でおしゃべりしている女子の間にヤマトは割り込み、今回の元凶かも知れない伊藤美雪を呼ぶ。
「あっ!!ヤマトくん。何か用事?」
「ああ……ちょっといいかな?」
 周りの女子が騒ぎ立てる中、ヤマトは彼女を連れて教室を後にした。
 人気が無くなってくると、伊藤美雪は嬉しそうにヤマトの腕に自分の腕をからめる。
「やっと私のこと考えてくれたのね。嬉しいvv」
 さらに腕に密着しようとした伊藤美雪を、ヤマトは強引に振りほどき、その反動で尻餅をつく。
「ちょ……なにするのよ!!」
「俺はオマエなんかと付き合う気は毛頭ない」
 冷ややかに見下ろしてくるヤマトに、伊藤美雪は思わず後ずさりしてしまう。
「オマエを呼んだのは、太一の記憶喪失がオマエと関連があるかも知れないからだ」
 ヤマトが吐き捨てるようにいうと、草むらから空と光子郎、それに太一が出てくる。
「貴女。ちょっと前に太一の家に電話しなかった?」
「そんなの知らないわよ!!」
 きっと空を睨み付けながら言う伊藤美雪に、太一は顔色を変える。いち早く太一の変化に気がついたヤマトが、太一の側に駆け寄る。
「太一!!大丈夫か?」
「……あの声……あの時の……」
 太一の脳裏にその時の言葉が甦る。
『あんたなんか大ッ嫌い!!なんでいつも石田君の側にいるのよ。石田君は私のものよ。あんたなんかに絶対に渡さないんだから!!』
 ガタガタを太一の身体が震え出す。それを止めようとヤマトが太一を抱き締めると、その瞬間伊藤美雪は狂ったように叫び出す。
「なんで八神君なのよ!!私だって中学からずっとヤマトくんのこと好きだったのに!!」
「それはどうゆうことです?」
 彼女の叫びに疑問に思った光子郎は質問を投げかける。二人が付き合っていることは選ばれし子供達しか知らないことであり、それをなぜ彼女が知っているのか、それが原因解明の糸口だろうと考えたのである。
「見たのよ……公園でヤマトくんが八神君にキスしてるのを……それで私電話で言ってやったのよ『ヤマトくんは私のものだって』」
「……それを太一に言ったのか?」
 殺気すら感じさせるヤマトに飲まれそうになりながらも、伊藤美雪は吐き捨てるように叫ぶ。
「そうよ!!八神君さえ居なかったら今ごろはヤマトくんは私のモノだったのに、八神君なんて……」
 言い終わらないうちに、パンッと何かが破裂したような音が響き渡る。
伊藤美雪は頬を押さえ、その彼女の前には空が立っていた。
「……空?」
 何が起こったか判らないヤマト達であったが、ようやく空が伊藤美雪を叩いたことが判った。
「貴女……サイテ−ね。太一とヤマトは心から愛しあってるのよ。それを引き裂こうなんて誰も出来ないの。貴女みたいに自分の恋しか見ていないような人には解らないかも知れないけど……」
 叩かれたショックで放心している伊藤美雪に、空は解らせるように優しく言う。彼女は叩かれたショックとヤマトの太一を労る姿を見せつけられ泣きながらこの場を去っていった。
「……取り敢えず原因は解りましたけど、太一さんの記憶は戻りますかね」
 光子郎は長いため息をつきながら太一の様子を伺うが、ヤマトにしがみついたまま動こうとはしない。
「二人きりにしてあげた方がいいかもね」
 叩いた手を振りながら空はヤマトにウインクを残して去っていき、光子郎も空の後についていく。
「……太一?もう大丈夫だから」
 いまだに震え続けている太一を強く抱きしめながら、ヤマトは久方振りの太一の温もりに眩暈がする。
 たった1週間離れていただけなのに、思ったよりもヤマトは太一に餓えていたのが解る。お互いの都合で何週間も会えない時なんてざらなのだが、メールや電話をしたりしてコミュニケーションをとっていたし、なによりも心はいつも一緒にいると感じていたから、辛くはなかった。
「太一……たとえ俺のことを全て忘れてしまっても、俺は太一しか愛さない。太一だけが俺の全てだよ」
 震える太一から少しだけ離れ、太一の顎を掬い取り思いを込めて口付けを贈る。触れるだけの口付けを解いたヤマトは、震えの止まった太一に安心をする。
「……ヤマト」
 記憶を無くしてからヤマトの名前など決して呼ぶことのなかった太一の口から、自分の名前を聴いてヤマトは目を見開く。
「ヤマト……オレもヤマトだけが好き。ヤマトだけ……」
「記憶が……戻った…のか?」
 ヤマトの問いかけに太一は小さく頷くと、ヤマトは殊更強く太一を抱きしめ、息も付けないくらい口付けを何度も交わした。

「あんときはちょうどヤマトが告られてるの見ちゃってさ、んでヤマトが嬉しそうにしてるから、やっぱり女の子の方がいいのかなって思ってて、そしたら電話であんなこと言われるだろ?精神的に参っちまったんだ」
 裏庭の芝生に二人で座り、自分が何故記憶を失ってしまったかの真相を話すと、ヤマトは何度も謝りながら太一に口付けを贈る。
「不安にさせて、ゴメンな太一」
 謝り続けるヤマトに微笑み滅多に自分からはすることのない口付けをする。
「ヤマトが悪いんじゃないよ。ヤマトの事信じきれなかったオレが悪い」
 ヤマトの胸に擦り寄るように抱きつき、ヤマトを太一を抱き締める。
「さっき言われたの嬉しかった……あんなにもモテるヤマトがオレだけを好きなんて……」
「好きだけじゃなくて、愛してもいるよ」
 囁くように太一の耳元で言うと、小さく「知ってる」と言われた。その顔はきっと真っ赤なのだろう、耳が薄らと朱に染まっていた。

 太一の記憶が戻ったことはすぐに子供達に知らされ、みな太一が戻ってきたことを喜び、再びあのバカップルに振り回されると思うと、ため息を吐かずに入られなかったという。







リクエストの『太一君が記憶喪失』になるお話でした。
なんだか良く解らない話ですね〜〜書いた自分も解りませんι
せっかくのリクをこんな形にしてしまってすいませんm(_ _)m
いつでも返品して下さい。




      きゃ〜っvv私の我侭なリクエストに答えてくださって本当に有難うございますvv
      お忙しいのに、私の下らないリクエストをこんなに素敵に書いていただけて嬉しいですvv
      何時も、我侭ばかりで、すみません。
      私も、頑張ってサクヤさんのお渡しする分を書き上げますね。

      本当に有難うございましたvv