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『昼』の渡りが失敗して別世界へと迷い込んだ俺は、そこで呪われた男と、その男を家庭教師に持つ少年に出会った。
呪われた男の名前は、リボーン。
その相手に振り回されている男は、沢田綱吉。
そして、直ぐには帰れない俺と『昼』は、この沢田綱吉の家で世話になる事となった。
本気で、早く帰りたいと思うのだけど、こればかりはどうなるかは分からない。
願わくば、ナルトとシカマルが心配してなければいいなぁと、無理な事を思ってしまう。
「あなたが、くん?リボーンくんから話は聞いてるから、こんな賑やかな家だけど自分の家だと思って寛いで頂戴ね」
この沢田綱吉の母親は、なんと言うか良く言えば大らか、悪く言えば警戒心皆無の人間だった。
夕飯だと言われたので綱吉の部屋から階下へと降りた俺を笑顔で迎えてくれた母親に、一瞬言葉を失ってしまう。
どう考えても胡散臭い子供が一人増えたと言うのに、嫌な顔一つ見せず笑顔で出迎えた上に寛いでくれと言う母親を本気で凄いと思ってしまった。
ああ、だからこそ、このお人好しな息子が出来上がり、この家庭教師がここに居るのかもしれない。
正直言うと、リボーンは俺と同じ部類の人間だとはっきり分かる。
それが、この普通の家に居られるのは、この母親あってのことだろう。
「くん?」
思わず考え込んでしまった俺に、心配そうに名前が呼ばれる。
「す、すみません。突然お邪魔して、お世話になる身なのに、満足なご挨拶もなく、本当に申し訳ございませんでした」
「気にしなくていいのよ。賑やかなのは、大歓迎なんですもの」
名前を呼ばれた事で我を取り戻し、慌てて謝罪の言葉を返す。
それから、世話になる事に対して丁寧に頭を下げた。
そんな俺に、母親はただにこやかに返事を返してくる。
「私は、綱吉の母親で、沢田奈々よ。好きに呼んで頂戴ね」
「では、奈々さんと、お呼びしますね。俺に出来る事がありましたら何でもおしゃってください、余り役には立たないと思いますが、一通りの事は出来ますので」
『……天然タラシだな』
ニッコリと笑顔で言った俺の言葉に続いて、ボソリと『昼』が口を開く。
って、誰が天然タラシだよ!それは、俺じゃなくて、ナルトの事だと思うぞ。
俺のは、ただ年上を敬っているだけだからな。
「あら?あなたが『昼』ちゃんね。本当に猫がしゃべっているわ」
ボソリと言われたその言葉に、『昼』を睨み付ければ、奈々さんが嬉しそうに『昼』を見て手を叩く。
それはなんと言うか、嬉しそうに見えるのは気の所為じゃないよな?
普通猫がしゃべったら、こんなに喜ぶ事はないと思うんだけど……
そこは、この人だからなのだろうか?
『『昼』ちゃん?』
しかも、『昼』の事をちゃん付け。
ある意味、最強かもしれない。
ちゃん付けされた『昼』が、複雑な表情をしたのは言うまでもないが、何時ものように文句を言わなかったのは、お世話になる身なのだから必死で我慢しているのだろう。
「『昼』ちゃんは、何を食べるのかしら?」
「……人と同じもので大丈夫です。猫の姿をしているだけなので」
「そうなの?それじゃ、もう一人分準備しなくっちゃ!」
「大丈夫ですよ。俺の分を二人で食べますから」
複雑な表情をしている『昼』にはまったく気にした様子もなく、奈々さんが不思議そうに質問してくる内容に返事を返せば、慌てた様子を見せるので、苦笑を零しながら返した。
なんて言うか、本当に無邪気で子供のような人だ。
「そう?でも、男の子なんだから、しっかり食べなきゃ駄目よ」
「えっと、俺はどっちかと言うと小食なので……」
自分の分を二人で食べると申し出たら、何故か叱咤されてしまった。
いや、小食なのはどうする事も出来ないので、勘弁してください。
「母さんもも、そんなところで話してないで、夕飯食べないの?」
複雑な気持ちを隠せない俺に救いの手を差し伸べてきたのは、何時まで経っても入ってこない俺達を心配した綱吉だった。
綱吉、本気でいいヤツなんだけど
「あらあら、ごめんなさいね。くんも席に着いて夕飯食べちゃって」
「はい、ご馳走になります」
綱吉に声を掛けられて、奈々さんが慌てて俺を部屋の中へと促す。
その日ご馳走になった夕飯は、本当に美味しかった。
奈々さん、料理上手だなぁと感心したので、素直にそう言えば嬉しそうに笑ってくれた。
うん、こんな美味しい夕飯をご馳走になったのだから、俺が後片付けをさせてもらおう。
と、言う事なので、後片付けは任せてもらいました。
お世話になるので、これぐらいの事は当然だ。
片付けを終わらせて、お風呂を貰ってから綱吉の部屋へと戻る。
今来ている服は、綱吉から借りた。
体格は、明らかに綱吉の方が大きいので、昔着ていたと言う服を借りている。
年齢は、そう変わらない様に見えるから、かなり悔しいんだけど……
「、お風呂から上がった………誰?」
部屋に入れば、先に風呂を済ませた綱吉が勉強机に向かっていて、俺が入った瞬間振り返り言葉を遮り不思議そうに質問してきた。
ちょっと待て、何で人の顔をみて、そんな不思議そうに質問してくるんだ?
「お前、そんな顔してたんだな。しかも、変わった目の色をしてやがる」
警戒している綱吉と、こちらはまじまじと俺の事を見てくるハンモック座って寝る準備万端のリボーン。
じーっと見詰めてくる視線が、かなり鬱陶しい。
大体、俺の顔がどうとか、今更何言ってるんだ?
『、前髪で顔を隠していたのを忘れているだろう?』
「『昼』?って、事は、やっぱりなの?!」
人の顔を見て驚きを見せる二人に、意味が分からなかった俺に、『昼』が呆れたように問い掛けてくる。
その言葉を聞いて、綱吉が驚きの声を上げた。
そう言えば、今日の仕事は顔を見られる訳にはいかなかったので、表と同じように前髪で顔を隠していた事をすっかり忘れていた。
なので、俺の顔は前髪で半分隠れていた状態になる。
それを今は前髪全部横に流しているんだから、分からなくて当たり前だ。
道理で、ここに来てから視界が悪いと思ったよ。
表の姿に慣れていたから、最近違和感が少なくなってきたんだよなぁ……。
「あ〜っ、一応、こっちが隠してない姿だから……女みたいとか言ったら容赦しないぞ」
驚いている二人に、ため息をついてしっかりと釘を刺す。
『可愛い』とか『女みたい』と言うのは、俺には禁句の言葉だからな。
「えっと、分かった。分かったから、その殺気何とかして!!」
忠告した内容と共に、どうやら殺気を放っていたらしくて、綱吉が怯えたように言葉をかけて来る。
それを聞いて、慌てて殺気を引っ込めた。
「悪い、どうも言われた時の事を思い出すと、冷静で居られなくなるんだよなぁ……忍者としては、ダメダメだ」
『お前は、気にしすぎるんだ。言った相手を凍らせたり、タラシ込んでどうする』
「こ、凍らせる?!」
「いやいや、そんな能力ないから!『昼』も、綱吉を怯えさせるなよ。まぁ、先に怯えさせた俺が言うのも変だけどな。悪かったな、綱吉」
殺気を引っ込めてから、素直に謝罪した俺に、『昼』が呆れたように口を開けば、さらに綱吉が怯えた声を出す。
それに対して苦笑を零してしてから、咎めるように『昼』に言って、もう一度綱吉に謝罪した。
『絶対零度の微笑みで相手を凍りつかせるヤツが、何を言っている。男相手には容赦なくその微笑を向け、女相手には口説き落とすくせに……』
「ほぉ〜、やっぱりおもしれぇヤツだな」
それに続いて呆れたように『昼』が説明する内容に、感心したようにリボーンが呟く。
いやいや、全然面白くないから!
「まぁ、それは怒りで我を忘れるから、仕方ないとして、綱吉は勉強してたんじゃないのか?」
「あっ!宿題終わらせないと、寝られない!!」
「当然だぞ、終わるまで寝る事は許さねぇからな、ダメツナ!」
説明された内容に苦笑を零しながら返し、椅子に座って俺の事を振り返っている綱吉へと質問すれば、慌てて机に向かう。
その後ろからリボーンがジャキリと拳銃を構える姿を見て、また苦笑を零してしまった。
本気で、綱吉は大変そうだ。
「俺で分かるような事なら教えるけど?」
「それは、助かる!でも、、中学の問題とか分かるの?」
苦労している綱吉を見ていると、どうしても気の毒で助け舟を出した俺に、綱吉が嬉しそうに返してきたが、直ぐに不安気に問い掛けてくる。
中学の問題?
えっと、基本、俺の世界ではアカデミーが一般で、中学と言う言葉は聞き慣れない。
それは、すなわち綱吉に勉強を教えるのは無理だと言う事だろうか?
「教科書を見せてもらえば、どう言うのかは大体分かると思うんだけど……俺達の世界に中学と言う概念はないからな」
多分、中学と言うのが学校だと言うのは分かるのだが、どんな事を習っているのかまでは流石に分からない。
アカデミーのように忍者になる為の勉強と言う事は、絶対にないだろうから
「じゃあ、これが教科書なんだけど……」
俺の言葉に、おずおずと綱吉が教科書を差し出してくる。
それを受け取って、ざっと目を通せば簡単な計算式が並んでいた。
どうやら、中学と言うのは、一般教養を教える場所のようだとそれで理解する。
「ああ、これなら大丈夫、教えられると思う」
そういった俺に、パッと綱吉の顔が明るくなった。
なので、綱吉が分からないと言うところを出来るだけ分かりやすく説明する。
と言っても、教えると言う行為をあまりした事がない俺が、どこまで相手に判りやすく教えられるかは分からないんだけど
「終わった!!」
それから1時間後、綱吉の宿題が終わったのはそんな時間。
もう既にリボーンは寝ているらしく、寝息が聞こえてくる。
目を開けて寝ているのには、ちょっと驚いたけど
「終わって良かったな。俺の説明だと分かり難くっかったんだろう」
「そんな事ないよ!の教え方、学校の先生よりも分かりやすかったから!!」
時間が掛かったのは、俺の所為なんだろうなぁと、申し訳なく呟いた俺に、ブンブンと音がしそうなほどの勢いでそれを否定する。
学校の先生と言うのは、教えるプロだろうに、それよりも分かりやすかったって、どれだけ教えるのヘタなんだ?!
「少しでも役に立ったのなら、何よりだ」
必死に俺に返してきた綱吉に、思わず笑ってしまう。
笑った俺に、綱吉が驚いたような表情を見せた。
「どうした?」
ポカーンと口をあけて俺を見てくる綱吉に、不思議に思って声を掛ける。
「えっと、いや、あの、の笑った顔、初めて見たから……」
問い掛けた俺に、しどろもどろ状態で、綱吉が返してきた。
まぁ、確かに警戒している中で、笑えるほど俺の神経も図太くないからなぁ、今はもう警戒する必要がないと分かっているんだから、表情を崩しても可笑しくないだろう。
しかも、綱吉は悪いヤツじゃないし、好感ももてる相手なのだから
「俺が笑うと変か?」
「ううん、いや、が笑うと、ふんわりだなぁと……」
だから驚いている綱吉に、疑問に思って問い返せば、意味の分からない言葉が返って来た。
それは、何度か聞いた事があるんだけど、ふんわりってなんだ?
しかも、綱吉の顔が赤くなっているように見えるのは気の所為か??
「俺、明日も学校だから、もう寝るね。の布団は、床にあるヤツ使っていいから!」
意味が分からなくて思わず綱吉を見詰めれば、慌てたようにそう言って綱吉がベッドに入ってしまう。
確かに、明日学校だと言うのだからそろそろ寝ないとまずいとは思うのだが、そんな慌てなくてもいいじゃないのか?
『……天然タラシ炸裂だな……』
慌ててベッドに入ってしまった綱吉を呆然と見詰めていた俺に、ボソリと誰かの声が聞こえてきた。
何を言ったかまでは聞こえてこなかったけれど、その声には聞き覚えがある。
「何か言ったのか?『昼』??」
何かを言っただろう相手へと問い掛ければ、相手はため息をついて既に布団の準備を整えてくれていた。
『疲れたから寝る』
「あっ、うん、お休み」
聞き返した俺に、ボソリと簡潔な言葉が返ってきたので、お休みの挨拶をする。
『お休み』
そうすれば、『昼』も挨拶を返してくれて、そのまま枕元に丸まってしまった。
その姿を見ると、本当に猫にしか見えない。
本人には絶対に聞かせられないような事を考えて、盛大にため息をつく。
確かに、今日は疲れた。
本当に、長い一日だったからなぁ……
俺達の世界ではもう夜も遅かったと言うのに、この世界ではまだ昼間だったのだから、本当に長い一日だったと言ってもいいだろう。
時差ぼけにならなかったのだけが、せめてもの救いといいたいが、これも過酷な任務のお陰だろう。
寝られない事なんて、ざらなのだから
もう一度ため息をついて、長い今日を終わらせる為に、『昼』が準備してくれた布団に潜り込んだ。
「……『夜』、ナルト、シカマル、お休み……」
今はここに居ない皆に、何時ものようにその言葉を呟いてゆっくりと瞳を閉じた。
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