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何だかんだと言っても、上下関係は一目瞭然で、呪われた身の男の意見が強制的に通された。
傍で見ていると、制服の男が気の毒で仕方なかったが、助け舟を出せる雰囲気ではなかったので、黙って見守ってしまったのは許して欲しい。
そんな訳で、今来ている場所は、制服の男の部屋。
うん、もうちょっと掃除した方が良いんじゃないかなって言う部屋だと思うのは、心の中でだけ呟いておく。
「で、お前等は何者なんだ?」
強制連行された部屋にそんな事を思っていた中、またしても同じような質問をされた。
それ、何度目になるんだ?
「まぁ、同じ問答を繰り返すのは好きじゃないから、ズバリと言うけど、俺は違う世界から来た忍者で、払い屋だ」
「忍者〜?!!!」
内心疑問に思いながらも、きっとこれを言わなければ先に進まないだろうと、あっさりと自分の事をバラす。
俺が言ったその言葉に、制服の男が驚きの声が上げるが気にしない。
まぁ、驚かれるだろう事は予想済みだ。
だって、俺のこの格好を見て不思議そうにしていたのだから、この世界には忍者が存在していないと考えて良いだろう。
もしくは、忍者はこんな格好をしていないかだな。
あれだろう、きっと昔懐かしい全身真っ黒で顔も隠している俺達の世界では大昔の姿が定番なんだろう。
「この格好は、その仕事服だから」
流石にこの服が普段着だと思われていたら、悲し過ぎるのでしっかりと釘をさしておく。
「マフィアの次は、忍者なんて、何でオレの周りには、まともな人が来ないんだよ!!」
だけど、俺のその言葉はどうやら彼の耳には聞こえていなかったらしい。
制服の男が、頭を抱え込んで居る姿を見て、気の毒に思ってしまった。
彼の姿を見ていると、余程日頃から苦労が続いているのだろうと窺い知る事が出来る。
もっとも、この呪われた身の人間が近くに居るのだから、波乱万丈になるのは仕方ないだろう。
「お前の事は少し分かったぞ。それじゃ次の質問だ。なぜあそこに居たんだ?」
内心制服の男を気の毒に思っていた俺の心情など関係なしに、偉そうに呪われた身の男がさらに質問してくる。
その姿は、拒否する事は認めないと態度で示していた。
流石に面倒になっている俺としては、その姿を前に大きく息を吐き出して正直に話をする。
「言っただろう。俺達はこの世界の人間じゃない。そこから考えて答えは簡単だ。あそこに居たのは、本当に偶然だ」
好きであそこに居た訳じゃないんだから、理由を聞かれても分かる訳がない。
大体、それが分かっているのなら、とっくの昔に自分の世界に帰っているだろう。
「……違う世界から来たと言うのに、お前はイヤに落ち着いているな」
あっさりと返した俺の言葉に、呪われた身の男が一瞬考えるような素振りを見せてから、探るような視線を向けてくる。
いや、何か、シカマルじゃねぇけど、めんどくせぇぞ。
「お前、人の話聞いてたか?俺は忍者だ。忍者って言うのは、何時如何なる時でも冷静で居なきゃいけねぇんだよ」
再度ため息をついて、呆れたように説明する。
俺が自分の事を忍者だって言ってんだから、それぐらい簡単に理解してくれ。
俺は、話が通じないバカは嫌いだからな。
「ちゃんと話は聞いてたぞ。一応お前を試させてもらった。オレには、お前の心が読めねぇからな」
呆れたように返した俺に、呪われた身の男が淡々と返す。
最後に言われた内容に、俺は少しだけ驚きを表に出した。
「へぇ、読心術出来るんだな。それは、ちょっと驚いた。俺の心が読めないのは、俺が忍者である前に払い屋でもあるからだよ」
「は、払い屋って……」
俺の心が読めないと言った呪われた身の男に対して、その理由を説明すれば、恐る恐る制服の男が質問してくる。
その目は、おっかなびっくりと言った所だろう。
「その言葉の通りだ。邪鬼・怨霊・妖魔を祓い清める者。邪鬼や妖魔には心を読める奴が居るからな、だからこそ心を読まれないようにするのは基本だろう」
「邪鬼、怨霊、きたぁ〜!!」
質問された事に素直に説明すれば、ズザザザッと音がしそうな程の勢いで制服の男が俺から離れていく。
いや、そんなに怖がらなくても、連れている訳じゃな……夢魔が居たのを忘れてた。
まぁ、何も危害を加えるつもりはないんだけど
「おめぇ、すげーな。ボンゴレに欲しいぞ」
「って、何言ってるんだよ!この人は、別世界の人間なんだぞ!それに、そんな得体の知れない奴を勧誘するなよ!!」
制服の男とは反対に、説明した内容に対して呪われた身の男は嬉しそうに俺の事を見ている。
そして、言われた内容に対して、制服の男が拒否した。
本当に、この二人のコンビは傍で見ていると面白い。
制服の男にとっては、うんざりするんだろうけど
「うるせーぞ、ダメツナ!」
そんな制服の男に対して、多分俺に向けていたのと同じだろう拳銃を取り出して発砲する。
部屋の中に、銃声が響いた。
「………直ぐに発砲するのは止めろって、いつも言ってるだろう!!」
それに対して、ビクビクしながらも制服の男が呪われた身の男を咎めるが、どう見ても聞き入れる気はないようだ。
「……苦労、してるんだな……のろ……ああ、俺まだ、あんた等の名前聞いてないし、俺も名乗ってなかったな。俺は。って呼んでくれ。この猫の姿をしてる奴が『昼』だ」
『宜しくするつもりはないぞ』
その姿を前に同情して呪われた男に口を開こうとしたが、良く考えれば俺には、この呪われた男に呼び掛ける事が出来ずに慌てて自己紹介する。
『昼』の名前も教えれば、今まで黙っていた『昼』がそっぽを向いてしまう。
「あっ!ご丁寧に、どーも……オレは、沢田綱吉で、皆にはツナって呼ばれてるんだ」
「綱吉か?いい名前だな」
名前を名乗った事で、制服の男改めて綱吉がペコリと頭を下げて名前を教えてくれた。
つながって、吉を呼ぶんだな。
うん、本当にいい名前だ。
「そ、そうかなぁ?名前負けとか、徳川将軍とか言われるんだけど」
素直に名前を褒めた俺に、綱吉が照れたように頭をかく。
徳川将軍?もしかして、昔の偉い人間と同じ名前なのか?
俺には、こっちの世界の歴史的人物は流石に分からないが、そんな事は関係ない。
名前がどうこうで、本人が気に入らないといってもこれだけは大事な事だから、覚えておいて欲しい。
「名前はその人間にとって一番大切なものだ。それをどう捕らえるからは、人によって異なる。でも、それを付けた人の想いが込められている事だけは忘れるな」
自分の名前に余りイイ印象を持っていないらしい綱吉に、しっかりと伝える。
例え自分の名前が嫌いだと言っても、それは自分を示すたった一つの証であり、その名前を付けてくれた人の想いなのだから
「気に入ったぞ。オレの名前はリボーンだ。このダメツナの家庭教師をしている」
咎めるように綱吉に言ったその言葉に、黙って話を聞いていた呪われた身の男改めて、リボーンがニヤリと笑いながら名前を教えてくれる。
そして、最後の付け足された内容に納得してしまった。
師弟関係だろうと思っていた俺は、間違っていなかったようだ。
「やっぱり、師弟関係か……綱吉、気の毒だな」
「えっ?、さん、やっぱりって……」
一人で納得した俺の言葉を聞いて、綱吉が不思議そうな顔をして聞いてくる。
慌ててさん付けしているのには、ちょっと笑えたけど
「さん、要らない。俺も綱吉って呼んでるからな。それから、お前等見れば一目瞭然だと思うぞ。リボーンの方が明らかに立場が上にしか見えない」
「流石だな。オレが認めただけはあるぞ」
不思議そうに質問してきた綱吉に理由を教えれば、満足そうにリボーンが頷く。
あれ?いつの間に俺はリボーンに認められたんだ??
「おい、と言ったな。ボンゴレに入らないか?」
「いやいや、俺直ぐに帰る身だから、無理だ。それに俺はもう既に木の葉の忍だからな、他の組織に入る訳にはいかないだろう」
「ボンゴレって言っただけなのに、何で組織って分かるの?!」
疑問に思ったが、それを質問する前にリボーンが質問してくる。
俺は、その言葉に呆れながらも返事を返した。
返した返事に、綱吉が驚きの声を上げるのが、分からないんだけど……
「普通は組織だと分かるだろう?綱吉はずっとマフィアとか言ってるんだから、ボンゴレもマフィアであると考えるのが妥当だろう」
「……いや、普通は無理だと思うんだけど……と言うか、オレは無理だから?!!」
「それは、お前がダメダメだからだぞ。まぁ、確かにお前は違う世界の人間だと言っていたな。本当に直ぐに帰れるのか?」
驚いている綱吉に対して、当然のように返せば、さらに声を上げる。
それに対して、リボーンが呆れたように綱吉にダメだし。
家庭教師なら、駄目だしするしかないだろうけど、本当に容赦はないな。
目の前のやり取りを、複雑な気持ちで見守っていた俺に、リボーンが質問してくる。
「そうだな、帰れるか帰れないかで言えば、帰れる。ただそれが直ぐかどうかは『昼』次第だ」
「えっ?その猫?」
リボーンに質問された内容に素直に答えれば、落ち着いたのだろう綱吉がさらに質問してくる。
って、さっきから綱吉には質問しかされてないんだけど
『猫じゃないぞ!オレは……』
「『昼』は猫の姿をしているけど、猫じゃないから、その辺は忘れないでいてやってくれ。そんでもって、この世界に来た原因は、『昼』の力で自由に場所を行き来出来る能力があるんだけど、何かの力に邪魔されてこの世界に飛ばされたんだ。あの時、あの場所で変わった事とかなかったか?」
意外だと言うように質問してきた綱吉に対して、『昼』が文句を言おうと口を開きかけたそれを遮って、原因となったそれを説明する。
もしかしたら、あの場所で変わった事があったとすれば、帰る手がかりになるかもしれない。
「……そう言う事か……」
こうなった原因を説明した瞬間、リボーンが納得したように呟く。
な、何だ、何か心当たりがあるのか??
「リボーン、なんか思い当たる事でもあるのか?」
明らかに心当たりがあると言うように呟かれたリボーンの言葉に、俺の変わりに綱吉が質問してくれる。
「思い当たる事はあるが、それをお前に教えてやる義理はねぇはずだぞ」
「……それが、ボンゴレ入りを断った仕返しか?」
しかし、リボーンから返って来たのは、明らかに教える気がないと言う返答。
ニヤリと笑っている事からも、俺がボンゴレに入る事を拒否した事が原因だと分かる。
こいつ、本気で大人気ないぞ。
「まぁ、分からなきゃ分からないで、困る事はねぇんだけど……帰る方法は、『昼』が居れば何とかなるからな」
「……だから、焦ってねぇのか?」
教える気がないと言う相手から、無理やり聞き出す気はサラサラない。
小さくため息をつきながら言った俺に対して、リボーンが聞き返してきた。
「まぁ、例え俺一人で別の世界に迷い込んだとしても、俺の事を探してくれる奴が居る限り不安に思う事なんかねぇよ」
確かに、今は『昼』が一緒だからこその余裕なのかもしれないけど、多分これが一人だったとしても同じだっただろう。
きっと、『昼』や『夜』は俺を探してくれると信じているから
「……本当にボンゴレに欲しいぞ」
言い切った俺に対して、リボーンが残念そうに呟く。
「そりゃ、どーも。でも、綱吉は反対するんじゃねーの?」
「えっ、いや、オレは………た、確かにさ…は、怪しいって言うか変だと思うけど、話をしていてリボーンが気に入るのが分かるって言うか……えっと、だから、何が言いたいかって言うと、いやじゃないよ、オレ」
それに対して、俺は多分反対するだろう綱吉へと問い掛けた。
だが返って来た返事は、俺の予想とは違うもので驚かされる。
必死で俺に伝えてきた綱吉のその言葉は、本気で予想外だったから
いや、そんなに話してないと思うんだけど、何が気に入られる要因になったのか、俺にはさっぱり分からない。
『、いつも言っているだろう、自分を過小評価しすぎだ』
「いやいや、過小評価もなにも、綱吉俺の事怖がっていたし!有り得ないだろう!!」
少しだけ混乱している俺に、呆れたように『昼』が口を出してくるが、思わずそれに突っ込みを入れてしまうのは止められない。
「本気で面白い男だな。いいぞ、あそこで何があったのか話してやる」
「えっ?」
思わず『昼』に突っ込みを入れた瞬間、楽しそうな声が聞こえてきて、気が変わったと言うようにリボーンが口を開く。
一瞬何を言われたのか分からなかった俺は、思わず聞き返すような声を出してしまった。
「あそこでバカ牛が、10年バズーカーを撃ったんだぞ」
聞き返すように声を出した俺のことは完全無視で、リボーンが淡々とした口調であの場所で起こった事を教えてくれる。
だが、言われた内容が理解できない。
ちょっと待て、なんで牛がバズーカーを撃つんだ?!しかも、10年バズーカーってなんなんだよ???!
「って、またランボの奴10年バズーカー撃ったのかよ?!あんな道端で!!」
さっぱり意味が分からない俺と違って、綱吉にはその内容が理解出来たようだ。
さらに、ランボとか言う名前が出て来た。
牛の名前が、ランボで10年バズーカーを撃つのか??
「ああ、そうだぞ。バカ牛が10年バズーカーを撃った瞬間、空間が歪んでこいつ等が姿を現したんだぞ」
「……ちょ、ちょっと待ってくれ、俺にはイマイチ状況が理解できないんだけど、ランボって言う牛がバズーカーを撃ったのが原因なのは何となく分かったんだが、何で牛がバズーカー撃つんだ?!しかも、10年バズーカーってなんなんだよ」
目の前で納得し合っている師弟に対して、ストップを掛けて説明を求める。
本気で訳が分からないんだけど、これなら聞かない方が良かったのか?!
「ああ、には分からなくて当然だよね……ランボって言うのは、牛柄のツナギを着てる5歳児の子供で、こいつが10年バズーカーって言う特殊なバズーカーを持ってるんだ」
「10年バズーカーは、その弾が当たった奴の10年後の自分と5分間入れ替わる事が出来るんだぞ」
混乱する俺に気付いた綱吉が、まずランボの説明をしてくれる。
それに引き続いて、リボーンが10年バズーカーの説明をしてくれたんだけど
ふ、普通に考えて、有り得ないだろう。
な、何だこの世界、そんな有り得ないモノが作れるのか?!
忍の世界でも十分驚くような信じられない術が多いけど、それを武器として作れるってどれだけ凄いんだ?!
ちょっとだけ、実物見せてもらいたいかも……
『……作ろうと思うなよ、』
「そんな事は流石に考えてないぞ!面白そうとは思ったけど……いや、じゃなくって、うん、状況は大体分かった。原因は、間違いなくそれだな」
10年後と入れ替わると言うその特殊な力によって、同時に似たような力でもある『昼』の渡りが明らかにシンクロしてしまったのだろう。
何とも、迷惑な話だ。
「原因が分かったら、何とかなりそうか、『昼』?」
『……無理だな。原因が分かっても解決にはなっていない』
「だよなぁ……」
分かってはいたが、この理由から考えて、帰る為の手がかりにはなりそうもない。
後は、『夜』との連絡が取れるのをひたすら待つしかないんだけど、それが何時か分からないから、その間の衣食住をどうするかだよなぁ……。
この世界のお金がどんなものか分かれば、『昼』に作ってもらってどうにでもなるんだけど
偽札になるんだから、良心が痛むよなぁ……。
「えっと、それじゃ、は直ぐには帰れないって事なんだよね?」
これからどうするかと言う事に頭を悩ませていれば、不安気に綱吉が質問してくる。
「まぁ、そうなるな。1日くらい食べなくても平気なんだが、こいつが煩いし……」
『当然だ。最近器のガキのお陰で食べるようになってきたんだから、そのリズムを崩すなよ』
「えっと、だったら、オレの家で泊まっていいよ」
綱吉の質問に答えて言えば、当然だと言うように『昼』が返す。
いや、確かに最近はちゃんと食べるようになったから、『昼』が言いたい事も分かるんだけど、状況が状況だから仕方ないと思うんだけど……
そう思って苦笑を零そうとした瞬間、綱吉が提案を出す。
「いや、泊まるって……見ず知らずで怪しいってさんざん……」
「がどんな奴なのか、少し話して分かったし、帰れないって分かっている人をこのまま見放すなんてオレには出来ないから……」
「よく言ったな、ツナ。それでこそボンボレのボスだ。そう言うことだ、ママンにはオレから話してやるぞ」
綱吉の言ったその言葉に、リボーンが満足そうに返してくる。
その後に綱吉の『ボスにはならないって言ってるだろう!!』と言う声が響き渡ったが、何時もの事なのかリボーンはあっさりとスルーしてしまう。
と言う訳で、俺が返事をする前に、綱吉の家で世話になる事が確定してしまった。
えっと、俺としては、出来るだけ早く帰りたいんだけど
本気で、何時帰れるのか分からない今の状況に、深いため息をついてしまったのは仕方ないだろう。
あ〜っ、ナルトとシカマルに余計な心配掛けるのは、イヤなんだけどなぁ……。
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