読書三昧
Bookworm Corner
May 25,1998
「本当の経済、本物の経営」
今回はこれからの世界に起こるかも知れない事態への心構えというのか、ある種の洞察というのか、そうした事をテーマに語り合った対談の本について書いてみます。題名は「本当の経済、本物の経営」、著者は「船井幸雄、高橋乗宣」の両氏です。高橋氏はバブルのパンクを予想し、それ以後の日本経済、世界経済について非常に的確な分析を続けているアナリストであり、現在は三菱総合研究所理事であります。日曜日の報道番組によく出ていましたので、皆さんお馴染みだと思います。船井幸雄氏は、(株)船井総合研究所という上場もしている経営コンサルタント会社のオーナー会長です。最近は新しい人間観、人間と地球の共生問題、地球を傷つけない技術等についての著書が多い方です。
この本の中に、一見経済とは関係がない次のような衝撃的な話が書かれています。「国連が纏めた資料に依りますと、地球上の生物は微生物を除いても約200万種位存在しています。そして1,000年以上前にはこれらの生物種が滅びる事は殆どなかったそうです。しかし、100年前には、4年に一種が滅びるようになった。70年前には1年に一種、そして20年前には1年で1,000種滅んでいったというのです。ところが、6、7年前には何と年間一万種が滅んでいたというのです。現在では恐らく年間4、5万種の生物が滅んでいるだろうということです。単純計算すれば、あと4、50年で地球上の生物は全て滅んでしまうわけです。国連の予測に依ると、人間がどんなに環境保護に努力しても、向こう30年のうちに30パーセントの生物種が滅びる可能性が強いそうです。」
なんとも衝撃的な話です。この上に私が少し付け加えてみますと、例えば今の地球上でまあまあ先進国の生活をしているのは、地球人口50億人の内約10億人だそうです。残りの40億人の国々が先進国を目指して頑張っています。当然先進国と同じように資源もエネルギーもこれから使って行くわけです。今でさえ地球はこれ以上もたない、といっているのに先進国の4倍の人口がこれから先進国を目指して追いかけて来ることになります。先に豊かな生活をしている10億人がこれから追いかけて来る40億人に、それを止めてくれ、とは言えません。じゃー、どうする、といってもどうにもならないというのが現実です。
毎日の生活の実感からしても、例えばこの蓼科で生活する為には、冬場は灯油がなければどうにもなりません。東京でなら厚着をすれば、家の中ではなんとか暖房なしでもやって行けるかもしれません。ところが標高1,700メートルの転寝坊では外気温がマイナス20度以下になることがしょっちゅうです。そういう日は暫く家を空かして帰宅すると、家の中がマイナス6、7度になっています。無駄な暖房をしないように、室内温度が18度位になると石油ストーブを切るようにしていますし、水道管の不凍用の電気ヒーターもマイナス4、5度まで上がってくると切ってしまいますが、それはあくまで多少の節約をしているという程度であって、石油も電気もなければ一日で身体も水道管もフリーズしてしまいます。昔極限の民族という本でエスキモーの生活を読んだことがありますが、今の蓼科であれをやるだけの能力も技術も根性もありません。
日本にも江戸時代までは、世界でも希に見る”人間と自然が共生する環境”があったように思われます。西洋に征服されない為に西洋文明の科学技術を学んで来たのが、明治以来の日本の歴史だったわけですが、その結果資源や化石エネルギーを使わざるを得なくなったということです。この本の中には自然を傷つけない今までとは全く違う新しい技術の萌芽が日本で芽生えている話も出ています。もっともそれが本当に実用になる話だとしても、この本が語っているように、一度現在の経済システムが完全に崩壊でもしなければ、既存のエスタブリッシュメントがその新しい技術を採用するような事はなかろうというのは、当たっていると思います。じゃー、どうなるんだ、という事になるのですが、どのみちこのままでは地球の環境も生物ももたないのですから、結局新しいパラダイムが現在の資本主義の変化から起こるのか、或いは地球環境の激変という形で起こるのかは分からないが、いずれにせよ何かが起こらざるを得ない、というのがこの本の結論でありまして、そういう事態が起こる事を考えながら、どういう心構えで生きていったら良いのかをいろいろ書いているわけです。
誰だって未来の事が分かるわけはないのですから、答えはないのですが、いろいろ参考になる対談が載った知的な経済書、或いは哲学書といっていいのかもしれません。ところで昨年あたりからどうも不穏な経済動向が始まっているようです。日本、或いはアメリカ発の世界大恐慌などという話も聞かれるようになりました。このまま落ちつけば良いのですが、拡大再生産の現在の経済システムが限界に来ているという、この本の指摘は当たっているような気がします。何かの参考に読んで損はありませんので是非御一読下さい。
本当の経済、本物の経営
著者 船井幸雄、高橋乗宣
発行所 (株)徳間書店
1998年1月31日 初刷 定価 1,575円
転寝坊 亭主