読書三昧


Bookworm Corner


February 25,1998


「文明の余韻---アングロ・サクソン文明ノート」


Buddhist Monk 読書の奨め、今回は知的なエッセイ集を取り上げます。タイトルは、エッセイ集「文明の余韻---アングロ・サクソン文明ノート」というものです。著者は数々の論説でお馴染みの、上智大学教授 渡部昇一先生。月刊「英語教育」に永年に渡って連載されたエッセイ集の一つだそうです。日本にとっては幕末以来遣隋使、遣唐使の時代に匹敵する学習の相手国になったのがイギリス、アメリカというアングロ・サクソンを主流とする西洋文明であったわけです。取り分けイギリスから派生した現在のアメリカは日本にとり何とも複雑な関係の友好国になっています。この本にはこの英米に拘わるありとあらゆる面白いエッセイが載っています。とにかく何処の一章を読んでも面白いのです。例えば、映画「薔薇の名前」を見て、という章にはこんな事が書いてあります。

映画の主人公はショーン・コネリーが演ずるWilliam of Baskervilleである。そういう実名のイギリス人は当時ヨーロッパで活躍していない。しかし1322年(この映画の事件の五年前)にフランシスコ会がベルギアで出した「福音的清貧」の宣言文にはノッティンガムのウィリアム(William of Nottingham)というイギリス人の修道会士が署名している。このWilliamは長いことオッカムのウィリアム(William of Ockham(or Occam))と思われていた。またオッカム自身、この頃フランシスコ会のこの論争に重要な役割を果たし、異端審問官に糾弾され、投獄までされていた。つまりウィリアムという二人のイギリス人がこの映画の背景になった事件に深く関与しているのである。そして論争の場における答弁からみて---これは映画より本の方がうんとくわしい---このWilliam of Baskervilleのモデルはオッカムと断定してよいと思う。オッカムはフランシスコ会士としてオクスフォードに学びパリで神学博士になりDoctor Invincibilis(無敵博士)と言われた。


Catholic Monk 清貧論争に当たっては、蓄財の才で歴史に名を残した教皇ヨハネス22世を批判する側にまわった。そしてアヴィニヨンで投獄されていたのであるが、その時、同じく投獄されていたフランシスコ会総長のミカエル・ダ・セスナらと共に船で逃げ出した。これが1328年5月28日のことである。セスナ等は映画「薔薇の名前」にも出てくる。だから映画の主題である1327年の暮の事件の後にアヴィニヨンに出かけたことになるから、ストーリーの設定自体には時間的矛盾はない。オッカムは1328年(映画の事件の翌年)に教皇に破門されるが、ミュンヘンに逃げた彼の学説は次第にドイツの諸大学を学問的に征服する。約200年後、ルーテルは大学でオッカムの哲学を学び、アウグスト会に入ってからもオッカムの哲学を教えられた。映画「薔薇の名前」の最終場面で北に向かって馬で落ちてゆくショーン・コネリー演ずるWillam of Baskerville(of Ockham?)によって播かれた種子から西欧を二分した宗教改革が起こるのである。

とまあ、ざっとこんな事が書いてあるのです。ここで私が付け加えれば、後にイギリスはカトリック教会と縁を切りますし、イギリスから派生したアメリカはプロテスタントが主流ですから、アングロ・サクソンは後にも先にもカトリック教会にとっては鬼門になるわけです。こうした面白い話が数限りなく載っています。夜ベッドの中で面白そうな一章を開いて読めば、その日は得をした気分になってぐっすり眠ることが出来ます。こんな本はめったにあるものではありません。後期中年諸氏に是非お読み頂きたいと思います。


文明の余韻---アングロ・サクソン文明ノート
著者 渡部昇一
       
発行所 (株)大修館(電話03-3294-2221)
1990年6月 初版 定価 当時 1,960円

転寝坊 亭主



「本当の経済・本物の経営」(1998年夏号)

「新宿鮫」(1998年秋号)

「日本はこれから良くなる」(1998年冬号)

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