一次予選通過作

勝抜き小説合戦 作品批評 03/04一次予選通過作

●2398長野(うこん)

○<挑戦者 17.8点>

 この作品は、主題を読取ることができませんでした。オリンピックが、国民総抽選制度のもとで行われている、という設定のようです。金メダルもあたるようですから、どうやら競技での結果も関係ないようです。つまり、この時代のジャンプ競技は、すばらしく鍛えられた競技者たちの戦いを見るというより、不運な犠牲者を見世物にしているようなものらしいということが想像できます。この作品で扱われているヒコサマ氏がそうした不幸な人物の代表なのでしょう。
 さて、そこに現在の状態との対比で何かの意味を込めているのか、それともそういうアイディア自体がこの作品の中心なのか、いまひとつ読み切れませんでした。
 どなたか、適切な解説をお願いします。

●姥捨て(アキ)

○<次点 17点>

 人生の苦しみを抱えて、自ら死にに行こうとする老女と、十年間も植物状態の母をもつ男の出会いを簡潔に纏めてあります。このあと、主人公の男が、この老女に何と言うのか、また、自分の母をどうやって救っていこうと考えるのかがいろいろ想像できます。そうした余韻のある作品です。
 もっともこの余韻は、結末を読者に委ねたということでもあります。私としては、作者自身の意見がもう少し明確に欲しいようにも思えます。老いの問題は、現在社会全体の課題でもあり、誰もが答えを探しています。こうした題材を取り上げた作品では「問題提起」に留まらず、積極的な「自分なりの答」の提示が求められるように思えるのです。小説は論文ではありませんから、必ずしも全てを書き記す必要はないのですが、そこまで踏み込んだ作品の持つ力を期待してしまいます。

●機械化社会(mmatsu)

○<一次予選通過 16.5点>

 人間が機械化していくという、ある種、定番の設定ですが、恐怖感より何かのんびりとした雰囲気のある作品です。「得体の知れない恐怖」とはありますが、この物語自体が主人公の白日夢だった、といっても問題無いような構成になっています。
 現代の、人間を管理することで会社の業務が効率化されている構造下では、管理される人間は「管理の中に埋没して機械化していくか」「管理についていけず無気力化していく」という二つの道を辿りがちです。そうした状況の一方を、短い中にうまく纏めてあると思います。恐怖を煽る絵空事ではなく、ごく普通の人の日常を簡潔に記述した作品、と言えるように思います。

●あの冬に見つけたもの(江田 公三)

○<一次予選通過 15.5点>

 この作品はどなたか批評してください。お願いします。

●ジャンケン星(真枯淡)

○<一次予選通過 14点>

 かなり文章のうまい方だと感じました。書きだしから、常態で簡潔です。誰もが読める単純な表現を重ねながら、ストーリーを軽快に進めています。じゃんけん星とは何なのか、ということは全く書いていないにもかかわらず、なんとなく納得してしまうのも、こうした表現の力でしょう。
 一応のルールで戦いながらも、実際には腕力(グウ)で全てを解決してしまう。しかし、だからといって勝って何があるというわけでもない(主人公はじゃんけん星に遊びに行っただけなのですから)というところが、現実のわれわれの生活を反映しているような、いないような感じです。曖昧なストーリーと、簡潔明瞭な表現で、読者に強い印象を与えられる作品だと感じました。

●巷に雨の降る如く(黒木りえ)

○<一次予選通過 13.5点>

 ヴェルレーヌの『無言の恋歌』の一節をそのままタイトルにしたのが、あまり効果的ではないようにも思えます。この作品は、依存的な愛の物語のように見うけられますが、その愛のかたちが、必ずしもヴェルレーヌのそれとは同じでないからです。積極的に相手を自分の物にすることもなく、卑屈な態度で接している主人公は、それでもなお、「しょーこ」に対する憎しみと独占したい気持ちを抱いている、といった複雑な状況のように思われます。主人公は、一種閉塞した状況のなかで、このままの状態が続かないという現実から目を逸らしているのでしょう。最後の「そして二人はいつまでも。そんな風に暮らしました」という言葉の空々しさが、この作品の主題だとしたら、それは、単なる恋の涙とは違うもののように思えます。

●地球防衛軍(メトロ)

○<一次予選通過 12.8点>

 じつは、よく分かりません。普通に読み流してしまうと、ただの与太話にしか思えません。全体に主題があるようにも思えませんが、かといって部分で面白さを狙っているようでもないし・・。
 この作品の批評は、どなたかお願いします。

●薬(黒木りえ)

○<一次予選通過 12.8点>

 「巷に雨の降るごとく」もそうですが、文章を書き慣れた感じがします。ふつうこれだけ一文が長いと、文法的に破綻してしまうものですが、この作品ではそういうところが見られません。よほど書き慣れているのか、ちゃんと推敲をしているのかだと思います。作者にとっての「薬」が何なのかは明らかではありませんが、人間の弱い部分を補ってくれる存在(最近の事件を見ると、ナイフなんかも、持ってるだけで自分が強くなれるような気がするようですね)として、無くてはいられぬもののようです。
 この作品では、「薬」のことを、つらつらと書き連ねながらも、それを持つ人間の弱さと、いつか誰かに譲ってしまえることを夢想する気持ちを表現しているように思えました。

●真夏の夜の夢(紅葉)

○<一次予選通過 12点>

 ほとんど全てを殺人ウィルスの物語に割きながら、実際は最後の部分に主題を置く構成になっています。こうした構成は、ショートショートの定石の一つですが、往々にしてネタが割れてしまうものです。この作品では、そうした失敗が無く、うまく最後まで引張っています。
 この作品を読む前に「30年後に小惑星が地球に衝突する可能性が数パーセント(これって、宇宙では結構高い数字ですよね)ある」というニュースを聞いてしまったので、なかなかタイムリーな感じがしました。もちろん執筆時点では、作者が知っているわけがないのですが。
 こうしたハルマゲドン系の話は、深く書き込めば書き込むほど類型化してしまうのですが、この作品では、さらりと落ちに使うだけに止めたのが、作品として成立できた所以かと思います。