夕焼け(98/12版)

夕焼け(98/12版)

京木 倫子

 前作で暗に死んでしまったように描かれていた友人は、この作品では生きて登場します。主人公にとってはどちらにせよ友を喪失したという点で同じなのでしょう。ただ、友人の現在の生き方を肯定したくない主人公の気持が十分に語られていないのが残念です。「銀座で働く」ということと「日本橋の銀行で阿漕な真似をしている」、「お茶の水の大手メーカーで下請けを苛めている」、「吉原のソープランドで働く」、「歌舞伎町のファッションヘルスで働く」、「巣鴨駅前のピンサロで働く」(いくらでも思い付くなあ)のそれぞれについて、どれが許せてどれが許せないのかは読者によって全く違うでしょう。「銀座で働く」ということだけで自明のように話を進めてはいけないと思います(私なら「日本橋」と「お茶の水」は駄目ですね「銀座」と「巣鴨」はOKかも)。
 変わったのは友人の方なのか、あるいは主人公なのか。そんな事を考えることも出来る素材ですが、表面上はそこまでは踏み込んで読むことが出来ませんでした。そんなところに、一人称で描く場合の窮屈さが感じられてしまいました。
 前作に比べ文章表現の面は整理されており、場面場面も効果的に描かれています。「私がためらいながら見せた小説を一生懸命読んで、そして感想をくれた彼女だもの」とか「うそよ。瑛子はそんな人じゃない」という表現は、やや上滑りしているように思えなくもないのですが、全体のトーンの中ではそんなに突出した印象もありませんので許容できます。