楽・らく・ラク・RAKU

楽・らく・ラク・RAKU

おあしす

(一次予選得点:12.5)

 巷間言われる「人間は忘れることが出来るから記憶ができる」とか、「不快な情報を捨てることで社会に適応できる」という説に沿った作品です。言ってみればありふれたテーマではありますが、文章の工夫で最後まで読ませています。私個人としては「人間は認知(認識)したものはほぼ全て記憶している」「忘れているとすれば短期記憶の領域に格納されていたか、記憶が不活性化しているだけである」という考え方ですので、必ずしもこの作品に共感することはできないのですが、見方としてはいいと思います。不活性化するにせよ忘却するにせよ「楽」になることは同じですから。
 「忘却すること=楽になること」という図式を描くことで、さて「楽になること=幸せ」かという問いを提示しています。表面上は全てを忘れてしまうことを肯定しているかのようでありながら、自分の意志や生体の防御機構として忘却することと、有無も無く忘れていくことの違いが浮き彫りになります。より踏み込んだアプローチをすればしっかりとした作品になり得ると思いました。
 表現の面ではいくつか気になる点がありました。例えば「情報が跋扈する」という表現は用法が不自然ですし、意味するところが分かりません。「さまざまな情報が溢れる」とか「情報収集力がものを言う」といったことを表現したかったのでしょうか。「アメリカの有名国立大学」というのもよく分かりませんでした、初めはUCバークリーとかイリノイ大学あたりのことかとも思ったのですが、これらはいわゆる「国立」ではありません。些細なことですが、気になってしまいました。