透明な血液

透明な血液

伊藤 修

(一次予選得点:14.3)

 単に血液製剤を打つ場面を描写しているのですが、十分に取材された内容はリアリティがあります。もしかしたら、作者は医療関係者なのかもしれません。この作品もその意図がどの点にあるのか、量り兼ねる部分があります。最後の段落が主題になっているのだろうとは思えるのですが、それが単にストーリ上のオチに過ぎないのか、それ以上の社会的な怒りや、生命科学というものの陥穽を描こうとしているのか、個人レベルでの運命の皮肉を描いているのかが判別できません。メッセージ性をもって書いたのであればその点をはっきりとする必要があるでしょう。また、単なる物語として描いたのだとすれば題材の選びかたに問題があるようにも思われます。
 こういう現在問題になっている素材をストレートに扱う場合には、その問題に対する作者のスタンスを明らかにしていく必要があります。そうでないと、読者の価値観が作品を読取る上で邪魔になってしまいます。
 文章表現では、この作品も「白猿」同様に文末の処理に不満が残ります。時制の扱いに一貫した方針が無いように思われます。この作品は、過去のある場面に焦点を絞って描き、最後に現在の視点から描いているのですから、現在形を主として描き、最後に過去形で纏めるのが効果的だと思われます。また同じ単語の繰り返しが多いことも気になります「デイスポに吸引針をつけ吸引する」という表現や「針」が繰り返し使われている点が、特に気になりました。「吸引針をつけたディスポで引くと〜」といった表現で重複を避けるべきでしょう。