白猿

白猿

伊藤 修

(一次予選得点:14.4)

 この作品を、単に情景的に捉えて良いものか、少し躊躇いを感じます。ストーリーとしては単純で、「シートン動物記」の「狼王ロボ」のような印象なのですが、その裏に作者の意図が見え隠れしているように思えます。例えば「(白猿は)身近にあった木片を手にした」という辺りには「白猿」を「人間」に重ねた部分を感じます。また、「村民は、田畑を荒らす猿を憎んでいた」ということで話を始めたことにも意図を読取ることが出来ます。もちろん、作者は何も含むところ無く、自然界を超克しようとする人間を描いているのかもしれません(最近流行の「もののけ姫」ものですね)。
 表現の面では達者な印象です。場面描写はスピード感があり、言葉もよく工夫されています。ただ、すべての文が「過去形」で書かれているため、文末が単調な感じが否めません。「畳み掛ける部分は現在形にして、段落末を過去形で落着かせる」というような、緩急があればよりスムーズに読めると思います。