母の写真
佐藤蛮人
(一次予選得点:16.3)
テーマの選び方はとてもいいと思いました。写真の中に人間を押し込めることで良しとしてきたことは、すなわち現在の人間関係のあり方を示しています。投稿作品の多くに家族がテーマとして取上げられていることからも、今私達がもっと関心をもち、また解決できずにいる問題なのだと思います。
物語は主人公の心の中で、概ね進んでいきます。こうした作品のポイントは主人公の「主観」がどの程度「客観的」に描けるかではないかと思います。記述されていることが全て額面通りに受取られてしまっては、主人公の潜在意識や誤りを描くことはできません。主人公は分かっていないけれど、読者には自明になる書き方というのは結構難しいものです。この作品も後半の部分で息子が祖母にどのような感情を持っているのかを主人公が推し量っている部分があります。ここがこの作品の最重要な部分でもあるのですが、この推量が当たっているものやら、思い込みやら不明瞭な気がします。たしかにその通りだと思わせる場面描写か、あるいは思い込みに違いないと思わせる論理的矛盾を描き込めていないのではないでしょうか。
物語としてはやや作り物臭く感じられるのですが、短い中に多くの時制をどうにか盛り込めており、うまく書けているという印象を受けました。
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