鰓呼吸の少女
黒木りえ
(一次予選得点:19.1)
傷痕に触れずにいてくれることも優しさだけれども、敢えてその傷を露にして、肯定的に見てくれることも優しさなのだという気がしてきます。今回の挑戦者に選出された「笑顔」と素材は違うながらも同じ「癒し」を扱った作品と言えます。女性は特にカメラマンに撮影されたり、画家に描かれることによって自分のポジティブな部分を認識できるという一面があるように思われます。そこには自分を受け入れてくれる優しい目があるからかもしれません。この作品の中心は少女の癒しですが、それを見つめる茅野の眼差しでもあるのだと感じました。
不必要なようでも年輩の女性をあえて配したのは、主人公と茅野の間の秘密を強調する上では効果的だと思います。また、年輩の女性に対する少女の微妙な気持が、書かれずとも漂っていると思います。これは読者次第ではありますが。
文章では以下の点が気になりました。「奇妙な引力をもった絵だった」は、やや類型的に感じられました。かなり工夫した表現にも思えるのですが、共感させるものを感じられませんでした。しかし、全体に文章の流れが自然で、苦労のあとが見えないのは流石に書き慣れた作者だと感じました。
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