秘密の水彩画
薗田慎平
(一次予選得点:19.3)
表現力には定評がある薗田さんの作品です。この作品も丁寧に技巧を凝らした文章になっています。
物語としても大変に良い話だと思います。ただ、その語り口に物語とのずれを感じてしまうのはなぜでしょう。男性風の硬質な文体のせいかもしれませんし、「柴田」という名前があまりに早くに出てしまったために、主人公の心の揺れが後半には殆どないという事情があるかもしれません。読者と主人公の心の流れにギャップが出来ているように思われました。
文章では以下の点が気になりました。「そこは店の半分が喫茶店になっていて、電車の発車時刻待ちなどの格好の時間潰しの場所になっている」は主人公の視点から少しはなれています。入ったことのない店ですから「電車の時刻まで時間を潰すにはもってこいだ」とすべきでしょう。「店主は上気して尋ねる静江を見て怪訝な顔をしていたが、作者は
「柴田」といって、ニ十分位い車で行った先の別荘に住んでいて、たまに作品を持ってきては展示して欲しいと置いて行くのだと教えてくれた」には「は」という助詞が重なっており、また文も長すぎて読みにくくなっています。「店主は怪訝そうにしながらも作者のことを教えてくれた。たまに作品を持ち込んでくるその男は、二十分ほど行った別荘に住んでいるのだという」と分割した方がすっきりします。
|