狩人
神崎 隼
(一次予選得点:11)
ファンタジーものでありながら現実世界が投影された物語になっています。あまり露骨に現実世界が透けて見える物は好きではないのですが、個人の嗜好の問題でしょう。千字でファンタジーを書く場合はある程度のお決まりの世界をそのまま使うのが良いと思います。例えばなぜ吸血鬼が屋根伝いに移動するのかとか、この町には城壁はないのかとかいろいろ疑問点が出てくるのですが、そこまで書く文字の余裕はないでしょう。そういう意味では大変難しい形式を敢えて選んだ作者の意気込みは評価されるべきだと思います。
この作品では、世界観を描くというより主人公の生き方を外面的に描いたに留まっていますが、行間から世界の掟や人々の思いが伝わる作品になる可能性を秘めていると思います。作品の厚みを持たせられるかどうかは、一つ一つの文をよりシャープに刈り込んでいくことにかかっているように思われます。
例えば「月の光が暗雲に遮られた夜闇の中、屋根伝いに町の外へと音も無く駆ける影があった。その影は町の外へと差し掛かると、ふわりと屋根から舞い降りた。と、暗雲の隙間から、月の光が姿を現し、その影の姿を露にした。その影は黒いマントを羽織った、一人の男であった。」という間に「月の光」「暗雲」「屋根」「町の外」「影」「姿」という言葉が重なって出てきます。必要のない場合もありますし、別の形に置き換えた方が良い物もあります。なにより文章の流れが澱んで感じられるのが残念です。こうしたつづら折りの山道のような表現が有効な作品もあるのですが、今回はよりスリムな表現を心掛けるべきだったと思います。
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