わたしのために…。

わたしのために…。

京木倫子

(一次予選得点:12.5)

 かつて垣間見た祖父と祖母の絆を、自分の結婚と重ねあわせた作品です。物語の骨格がしっかりしていて、安心感があります。外から見たのでは分からない夫婦の関係を、朧げながら理解できる女になったという成長の物語でもあります。もっとも、この主人公の理解が十分なものなのかといえばまた疑問もあるのですが、あくまで等身大の物語ということでは良いのかもしれません。
 文章表現にはかなり凝った跡があるのですが、ややくどく感じる部分もあります。例えば「もし音が水になるなら、全身濡れずにはすまなかっただろう。それほどの蝉時雨のなか〜」といった表現は「蝉時雨に打たれながら〜」としてもさほど変わりがないように思われます。「時代劇で見る華やかな生地ではない」は「時代劇」という言葉で作者がイメージするものが分かり難く思われます。