くらげ

くらげ

神功 零時

 上手いです。上手いだけに騙されそうになる面もあります。少なくとも私にはこの作品の主題がぼんやりとして掴みきれませんでした。後半の幻想的な情景描写に見とれて何だか分かったような気になってしまうと、作品の中心が読取れなくなるように思います。樹海に入るときは覚を殺そうと思っていた正助が、海月を眺めているうちにもっと大きな力に惹かれていく流れはうまく書けているのですが、さて海月の正体を何と読取ればいいのか充分には読取れません。もう少し、読者に明確に示しても良かったように思われます。何となくこの樹海が生命の源だと暗示しているように読めるのですが、それで充分かどうか気になります。だからなのか、最後の「……まるで、海の気球だ」が活きて感じられませんでした。
 表現の面ではかなり凝っているのですが、多少気になる点もありました。登場人物が姓でなく名であらわされているのですが、日本文学には成人男性は姓を用いるという原則があります。あえて名前を使う場合には、互いが幼いときからの付合いであるとか、同じ姓であるとか、愛人関係にあるといった場合です。この二人は幼なじみなのかもしれませんが、少し違和感がありました。もちろん姓を使うか名を使うかは作者の持ち味の範囲ではあるのですが。「ワイングラスのように広い口を上に向けてそそり立っていた」は語順に問題があります。これでは「ワイングラスのように広い口」と取られかねません。