りんご

りんご

黒木りえ

 ある意味でとても個人的な作品を読んでいる気にさせられます。ちょっと想像しにくい林檎の剥き方、史郎が果物を自分から食べようとしない理由、そんなプライベートな描写が静かに語られています。こうした二人の間だけの了解事項が親密さを確認させて、ささやかな幸福感を感じさせます。読者から見れば危うくも見える幸福が、独自の作品世界を構成していると思います。
 表現の面では、さすがに手慣れた印象があります。独自の文体も出来ていると思いますが、やや文が長いようです。長い文に突き当たると、急に場面の見通しが悪くなるような感じがします。この辺りは下手に修正すると文体の魅力を失いかねませんので、難しいところではあります。