会いたかった
香沢智行
それなりに形にはなっているのですが、物語の展開に無理を感じます。今までも何度か使われている幼い日の記憶が戻ってくる話です。しかしながら、最後でそれを説明する部分が説得力を持っていません。人を殺したり、心の傷を見せたりすると、それなりの小説の形が出来てしまいます。それに頼ったように見えてしまうのです。
この作品には現在の恋人が登場するのですが、全くといっていいほど機能していません。その辺りも、作品に広がりが出てこない理由だと思います。もう少し会話を整理して、時制を描き分けられたら、作品の世界がはっきりとし、また奥行きが出てくると思います。
「会いたかった」のは主人公なのか、それとも良子なのか、はっきりとしないのも良子のキャラクタが外面でしか描かれていないからかもしれません。なぜ主人公の後を黙ってついてきていたのかが分かる程度には、心情が描写されるべきだと思います。
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