レール

レール

ブルームーン

 主人公の未熟さが気になる作品です。ある程度は作者もこの未熟さを意図しているのだと思います。たとえば「19歳で司法試験を通過した奴、援交で政治家のパパを手玉に取っている奴、ハッキングで世界最大のソフト会社から情報を入手する奴、そして僕はと言えば情報解読の仕事をしている。みんな平均的なサラリーマンが一生かかって稼ぐ現金ぐらいの貯蓄は蓄えてある」という浅薄な価値観が幼さを強調します。そうした危うさを作者は描きたいのかもしれません。「青の時代」のモデルとなった光倶楽部の山崎晃嗣のような線を狙っているのでしょうか。そのためには彼を支える心理的背景が描けなくてはなりませんが。
 細かな文章表現には気になるところが見られます。「絶対に東大に落ちる自信は無かったし、これ以上やっても無駄だと思ったから。自信があればスペアはいらない。僕はいつもそう思っている」という文は意味が不明です。主人公は落ちようと思っているのか合格しようと思っているのかさえ分かりません。あえて解釈すれば「レールでやって行ける自信があれば、東大というスペアはいらない」と言いたいのかとも思えますが、それでは文の前半が浮いてしまいます。「彼は外交官の息子で、北京に何年か住んでいたことがあり、その語学力から多くの中国人と人脈があって、ネットを張って数ある地下銀行の近状を纏めては、それを売りさばいていた」も一文に多くの内容を詰め込みすぎです。「シンジ先輩は北京に何年か住んでいたことがある。父親が外交官なのだ。毎日のように外国人用のディスコで党幹部の息子達と遊び歩いていた。その頃の付合いが地下銀行の情報を集めるのに役に立っている。裏の情報は金になる」という風に、複数の文に分割した方が良いでしょう。