序曲

序曲

斎木慈

 自分の知らなかった妻の過去を受け止める主人公の物語です。妻の告白はたしかにドラマチックな内容なのですが、私が擦れているせいか新鮮さは感じませんでした。この作品のポイントとなるのはそうした過去を主人公がどう受け止めるかだと思われます。「僕に出来る事は、妻の頭を撫でてやる事ぐらいだった」わけですが、それによって「ゆっくりとだけど悲しみが薄らいでいった」ことに救いを感じました。この部分をより詳細に描ければ作品に深みが出たように思います。妻の告白の部分はもっとあっさりできるのではないでしょうか。
 「月の光」の曲のイメージが、特に作品上マイナスにはならないとは思いますが、この曲ばかりを弾く必然性もないように思われます。不自由な手でも弾ける曲ということで選ばれたのでしょうが、この曲である必然性を描くか、曲を特定しない方がよかったように思われます。ピアニストとしての彼女の経歴の描き方にも不自然な点を感じました。