沈丁花
小副川
(一次予選得点:18.6)
先週とは少し毛色の違った作品です。沈丁花の強烈な匂いの中で静かに老人たちの春が訪れます(赤紫が残っているということは、まだ花は開ききっていないのかもしれませんが。)。生きることからもリタイアしてしまったかと思われるような老人にも、瑞々しい気持ちが甦ってきます。その生命力は沈丁花のむせ返るほどの匂いのようにも思えます。
この作品のポイントは登場する人々の気持ちと、主人公の気持ちを読者が感じ取れるかどうかだと思います。主人公のキヨ子に対する気持ちは、やや客観的過ぎるようにも思われるのですが、これは意図したところでしょうか。また、恵子、ヨネ、常次郎に対する描写が中途半端で物足りない気もします。彼らも主人公とは古い仲間のようですが、説明不足に思われました。キヨ子に焦点を絞るか、他の仲間全てと隔てられてしまった主人公を中心に据えるかした方が良かったのではないでしょうか。
細かな表現では以下の点が気になります。「はかなげにげ息をしているよう」は二重に比喩が重なっていて不自然です。
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と書いたのですが、作者の方から訂正がありました。作中で「恵子」と書かれているのは、「キヨ子」の誤りだそうです。とすれば、多少違った面が見えてきます。キヨ子は主人公の連れ合いということになりそうです。夫婦の愛情は相手をありのままに受け入れることなのか、そういったことも主題に関係してくるのかもしれません。
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