ガンバラナクッチャ
鳥頭
(一次予選得点:19.5)
「じっと手を見る」を知っているはずの作者が、あえてこの作品を出してきたとしたら、かなりの自信があるのでしょう。と言うのも、この作品の構造がまさに「じっと〜」と似ているからです。妻や子を失った男と妻や子に相手にされない男という違いはありますが、解決されない孤独感、過去に対する想い、最後に呟く独り言という物語の仕組みは同じです。「おとうちゃん、まだ生きてるよ」と「がんばらなくっちゃな…」の戦いといってもよいと思います。両者の優劣は審査員に委ねるとしても、なかなか意欲的に感じました。
作品の主題については、やや陳腐な気もします。一昔前のテレビドラマで見飽きた光景というのか、事実とは無関係に作り上げられている典型を見るような気がします。物語が一人称で進むこともあって、リアリティが薄いように思われました。
表現の面でも、ありがちな表現に頼っているように思われました。「憮然」「集大成」「矢継ぎ早」「安住の」といった表現が文章の中で浮き上がっています。言葉の意味合いと文意にずれがあります。
細かな点では以下の点が気になりました。「自室に引きこもっていく」の「篭もる」には「隠れて、じっと動かない」という意味合いがありますので「引きこもっていく」という動作は不自然です。「妻が私を向かえ」は「迎え」が妥当でしょう。
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