羊が……

羊が……

駱駝乃パッチ

(一次予選得点:16.5)

 自己複製による個の喪失への恐怖を描いた作品です。科学からは遠く離れた人間の欲望が生み出すクローン個体の生産は、結果的には人間の存在を塩基配列に帰結させてしまう。ドリーと人間を重ねてみせています。
 見方によっては「クローンは年齢の離れた双子を作る技術であって、けっして同じ人間が複製されるわけでは無い(意識の連続性が無い)」と言う事も出来ます。経済原理と科学技術と個人の欲望の関係はどうなるのでしょう。この作品自体はその踏み込みが不足しているようにもとれますが、複製される側であるドリーにとっては当然かもしれません。また、そうした技術を用いずとも、既に私達はドリーになっているということを作者は暗に言っているのかもしれません。
 細かなところですが「アデニン、チミン、グアニン、シトシン。四つのヌクレオチドの
鎖」という表現は、アデニン、チミンなどがヌクレオチドであるという誤解を生みかねないと思います。