那由多

(一次予選得点:18.5)

 ただ咳をする主人公と、彼の思念だけで構成された作品です。短めですが、たしかにこの形式で長いものを書くのは難しいでしょう。理屈を積み上げれば積み上げるだけ、主人公が現実から遊離してしまいます。
 この作品の仕組みは読者に共感を与えるのではなく、外から主人公を眺めさせます。思考が進むにつれ、主人公の弱さが際立ってきます。短いなかでそうした寂寥感はよく出ていると思います。ただ、単に病気の人間を悲惨に描くのでは、作品的に弱いようにも思えます。
 いろいろな表記で咳を書き分けている点は感心しましたが、さてどう表記したときにどういう咳なのか、実のところ想像できませんでした。