哀歌

哀歌

瓜生瑠璃

 叙情的な描写の作品です。書き出しの描写にはかなり凝っています。ただ、主人公がどこで何をしているのかが読み取りにくいようです。船の上なのか、港の岸壁か分かりませんし「海の上空で瞬く街の灯を眺めていた」の具体的な光景が想像できませんでした。
 ストーリーは一応の纏まりがありますが、御都合主義にも思えます。何か無理矢理に話が進んでいくようで、物語が自然に転がっていきません。もう少しストーリー以外の部分(主人公の感情や考察)に分量を割いても良かったのではないでしょうか。
 表現の面では、くどい表現が少し気になりました。例えば「僕が横を向くと、どこに居たのか、いつのまにか一人の男が僕の真横に立っていた」では「横」が重なっていますし「汽笛の高音と男の声が重なり合って、はっきりと聞こえない。そして、僕の答えを待たずに男は言った」の「そして」は無駄のように思えます。「僕が体の具合の事を気にして心配したが」も「気にする」と「心配する」ではくどく感じます。「母からは、僕の父は、僕が小さい頃死んだとしか聞かされていなかったので、僕は、父に対しての思い出が何一つなかった」も「僕」が重なりすぎていて翻訳文のような印象です。この辺りを整理すれば、読みやすくなると思います。