線路

線路

京木 倫子

(一次予選得点:19.3)

 家庭内の不和に対して、線路を歩くことでしか対応できない少年の無力感が描かれています。それがもっと大きな自己不全感の象徴となっているのか、あるいはこの物語で完結したものなのかは明確ではありません。この作品の内部では感情のスケッチとして十分に描き切れていると思います。
 少年を抱き留めたがっちりとした大人の腕は実際に存在しているのでしょうか。それとも少年の心の中にある微かな希望なのでしょうか。少年がここにいることをなぜ両親が知ったのか、またタイミングがあまりに丁度すぎないか、といったことを考えると実在しないと考えるのが自然のようにも思われますが。過去に線路を歩いたことがあるので気がついたのかと初めは思ったのですが「フェンスが壊れていた。だから、少年は中に入った」とありますのでそうでもないようです。そういう読み方をすれば、この物語は少年一人が描かれた孤独な物語と言えるでしょう。たぶんこれからもずっと孤独な。