ぬいぐるみ

ぬいぐるみ

今井信之

 これはぬいぐるみの世界をただ単に楽しめばいいのでしょうか。ぬいぐるみという物にどの程度の意味を込めているのか判断に迷いました。初めはじっくりと情景を思い浮かべて読んでいたのですが、途中から読むのが苦痛になってしまいました。部分部分の描写は丁寧で優れています。しかし最後まで同じ調子で続く文章を読ませるのはかなり難しい物です。たとえ千文字だとしてもです。例えば細部からどんどん視点が拡大していくけれどその仕組みが同じ、というフラクタルな構造にしてみるのも面白いと思います。この作品では視界が広がったり縮小したりしているので、このまま無限に描写が続くような退屈さが感じられます。ぬいぐるみだけの退屈な世界を描きたいのならそれなりに成功しているのかもしれませんが、読むことに退屈させてはいけません。文章は文の集合ではなくその構造物であるということを考えて、戦略的に作品を組み立てられると良いのではないかと思いました。