フェードアウト

フェードアウト

一種

 人生の大切な時期、辛い時期を取上げて、夫婦の関係を描いた作品です。丁寧に書かれています。まるで死を迎えるような感慨は、失明しようとする人には自然です。ただ、失明しても、この人の生活は続きます。作者も「思わず差し出した手を、妻の暖かな掌が包んだ」と、今後に希望を繋げる表現をしています。しかし、もう少しその部分への不安や、思いに触れておいても良かったように思います。フェードアウトしたまま人生が終るのではなく、そこから光のない別の物語が始まるのですから。
 作品の主題と直接には関係のない部分ですが、主人公の病気が気になりました。このように短い時間の中で徐々に暗くなっていくような病気を思い出すことができませんでした。虚構の病気なのでしょうか。実在するなら、初めに症状の進行形態を説明して欲しいところですし、実在しないならきちんとした設定にする方が良いと思います。