人魚姫

人魚姫

黒木りえ

 「理由といえるほどのものはなかった」という文がすべてを表しているように思われます。ただ、理由もなく自分からは口を開かないという事を実行する。ただそれだけ。話す事は別にない。そう言い続けているのですが、実際はどうなのでしょう。そこには、本人が自覚していないであろう、大きな理由があるものです。そう言われると主人公は「いや本当にないのだ」というでしょう。そうした心理状態こそがこの作品の描いているものだと思います。一貫して同じ心情を主人公に語らせる事で、潜在的な部分が浮き出す作品と言えます。