下請け業者の復讐
徳生洋樹
(一次予選得点:19.5)
赤穂浪士の討ち入りのようなつもりで物語を綴ったつもりなのかもしれませんが、主人公の心の貧しさや哀れさが前面に出てしまいました。かつて自分が味あわされた発注する側の横暴を、自分で繰り返しているだけなのですから。これでは、底の浅い物語になってしまいます。
見方によっては、下呂谷氏の行為は公正とは言えないまでも仕事としての「富の追求」の一環(つまりお仕事)ですが、主人公の行為は自社の利益を失わせる個人的怨恨に基づいた行為(つまり業務上背任)です。少なくとも法律上は主人公の方に問題があるのです。
復讐の結末を悲しく哀れに描くか、爽快に描くかは筆者に委ねられた問題ですが、この作品に関しては、作者の意図とは離れてしまったように思われます。この物語は下請け業者の不満を晴らす爽快な物語ではなく、下請けから発注側に回り、かつての自分の立場にいるものを苛める、陰険な話になっているからです。
筋立てにも、緻密さの欠ける(あるいは説明の足りない)部分があります。例えば、仕事が終ってから「見積書」を出すのは不自然です。こうした商慣行をもつ悪しき業界もあるでしょうが、一般的とはいえません。この段階では「請求書」でなくてはなりません。「訴訟対策も万全」と言っていますが、この一言で読者が納得するでしょうか。
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