幸不幸

幸不幸

のなめ

 主題を絞って手際よい展開になっています。自分が「幸せでは無い」ことを拠り所にして、他者を攻撃的な形で理解しようとする者と、切り刻まれていく者を対比して見せています。語り手自体の感情はあまり述べられておらず、実のところ刻み続ける側の感情が前面に出ています。語り手について言及しているのは、まさに幸せなものは「すっかり、死んでしまっている」ということです。不幸であることが生きることで、幸せであることが完全な死だということでしょうか。
 タイトルは「幸不幸」で「何処で幸不幸を感じるのでしょう」と述べているのですが、刻んでいる人は「幸せでは無い」ことから「私には無い器官があるのでは無いか」と思っているわけですから、実際には「幸」の方にこだわっています。そのあたり、やや齟齬を来しているようにも思えます。