消えてもいい
白井 義隆
作者の思いが空回りしているように思われます。最後の伸吾がマッチを擦る場面で、読者もそうしたくなるようでなくては、作品が上滑りなものになってしまいます。登場する二人が、人間として描き切れていないため、行動パターンを理解することができないのです。文章が生硬で説明調なのも関係しているかもしれません。
細かなところでは、「伸吾が口にした時のみ、明美は口を開いた」といった表現は、場面の時制が不明確になるように思います。「口にした時のみ」というと、これから先の事まで規定してしまうからです。過去を回想するニュアンスが出てしまいます。ここは「口にした時、初めて声を発した」とか「口にした時、やっと声を発した」とする方が自然でしょう。
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