僕にとっての快楽
マゾヒスト
かなり絞られた読者層を対象にした作品なのか、それとも、ある程度の普遍性をもたせて書いたものかわかりませんが、少なくとも、普遍性は獲得していないように思えます。性的な素材を扱うということは、かなりの手探りです。通常の作品であれば、作者と読者の経験にはかなりの共通部分があり、そこに依拠して記述をすることができます。しかしながら、性的な経験は通常少人数(一人か二人が一般的?)でなされることが多く、読者とどれだけの共通部分があるのかわかりません。私個人としては、かなりフェティッシュな作品を書くことが多いので、読者を限定することに必ずしも否定的ではないのですが、それでも、より丁寧な描写を行なうよう心掛けています。読者が、そのフェティッシュな世界に入り込んでしまうことを意図して。
この作品がもしも性的な興奮を惹起しようという目的で書かれたとしたら、ステロタイプに捕らわれすぎではないでしょうか。もっといたぶりの詳細を描くとか、その時の主人公の気持ちや性感について言及しないと、読者と感覚を共有できないのではないかと思います。特に、この場面にいたる経過や、背景、人間関係もほとんど述べられていないのですから、感情移入ができません。加虐と被虐の性感は、心理的な側面が大きいのですから、より深い感情の描写を期待します。この作品では「僕にとっての快楽」が伝わってきませんでした。
|