月が鳴いたか

月が鳴いたか

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 歴史的な事件(というより災害)を素材にして、当時の風俗・世相を活写した作品。評者も当時の事はさほど詳しくないので、正確かどうかは判断しかねるが、描写の視点が良いように思われます。「松之助の絵看板が目玉をむいて」という辺りは、なかなかのものです。作者の力量が感じられます。
 この作品には、「父をから旅立ち(父を否定し)、自分の道を歩こうとする息子」という、人類普遍の主題があるように思われます。しかしながら、そのことに対する解決を見ないまま、終ってしまうのは、やや消化不良な気がします。主人公の自己不全を表現するなら、外部的要因である災害によって結末を迎えるのはどうかとも思われます。