物語の主人公:T
池田朋子
(一次予選得点:19.5)
どこまでが演技でどこからが事実なのか、境界の曖昧な作品です。普通に読むならば、自分の存在が現実の中で物語としてしか捉えられないということに、不条理を感じているTの話です。しかしその裏には、物語の語り手である作者が存在して、嘘物語をこしらえてストーリーに登場人物を載せるだけの作業より、人間の心が表出するものが書きたいと言っています。しかし、その裏にまたそんな作者を描いてみせる狡猾な真の作者の北叟笑む姿が見え隠れします。
往々にしてこうした作品は、何の生産性もない駄文になり易いのですが、辛うじてそれを逃れているように思えます。「物語ではなくひとの声をTはほしい」と言い切っているからです。しかし,この課題を完全に解決するには、作者が作品をもって回答とする必要があろうかと思います。
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