鉢
早瀬 漣
(一次予選得点:25.5)
個人的に、好きなタイプの作品なので、楽しく読ませていただきました。相手の細やかな心が伝わってくる瞬間というのは、なかなか小説では描き難いのですが、それに成功していると思います。丁寧なストーリーの進め方で、上手いと思います。花屋の方をややミステリアスにしておいて、実は普通の花屋だというのが巧みです。花言葉が「気立ての良い・可憐な」というオンシジュームを勧められる辺りも、遊び心があります。ちょっと買うには高いですけど、そうでないとおまけに鉢植えをくれるのが不自然になるので、妥当なところでしょう。
いつ彼女が種を植えたのか少し気になりました。少なくとも給湯室に持って行ったときでは、種の準備が良すぎるようにも思えます。何の花が咲く予定か知らないのですから。もちろん、いつの間にかというのが、その光景を想像させて味わいがあるのですが。
この作品では、書記の彼女が魅力的に(あるいは読者に好感をもって受け入れられる女性に)描けたことが、成功の全てのように思えます。
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