フック・ボタン

フック・ボタン

朝賀千雅

 キャッチフォンの仕組み(自分が出たい方にフックボタンで切り替える)を活かした作品です。恋人との会話を打ち切れずにフックボタンが押せない。上司のお茶の催促に退社できない。強くいたいが強くいられない主人公の心がうまく描き出せています。どうということのないお話なのですが、主人公にとってはとても大切な出来事(雨の牛込中央通を走るほどの出来事)です。この気持ちを自分の中に止めることができずに電話をする。主人公の精いっぱいの生き様が、リアリティをもって描かれています。
 こうした作品は、読者の嗜好によって評価がかなり分かれるものですが、味わいのある作品に仕上がっていると思います。