糧
Mいとう
貧困にあえぐ少年が、暖かな家庭と、飢えのない生活、そして虚栄心を満たすに足る両親を夢見るお話です。要は、暖かな家庭はなく、飢えきっており、屈辱にまみれた生活をしているというわけです。こうした夢は「マッチ売りの少女」を例にするまでもなく、多くの少年少女が見るものです。都市という、大量消費と貧困の隣接する空間は、こうした物語の母体です。作者は、このありふれて、それでいて小説に使うのが難しい設定を選んでいます。
こういった素材では、作者の意図がどの辺りにあるかによって、評価が変わってきます。社会の矛盾を告発するのか、夢に逃避することの空しさを訴えるのか、あるいは夢の持つ人を生かす力の素晴らしさを述べるのか。その辺りが、今一つ不明確に思えます。それは、主人公が今一つ人間的な魅力(読者が好感を得るにしても、嫌悪を覚えるにしても)に乏しいからのように思えます。この少年の生き方に是も非も感じなければ、読者はただの「お話」としてしか捉えらえません。もっと心理の表層から深くへ踏み込んだ描写が欲しいところです。また、空想の部分と現実の部分の分量のバランスが良くないように思えました。私個人としては、初めの空想部分はもっと短くして、後半にもっと問題提起するようなことを書き込んで欲しく思いました。別の読者は、前半をもっと書き込んで、最後に現実に戻るのを好むかもしれません。どちらにせよ、今のバランスはあまり良いとは思えませんでした。
|