端麗甘口
池田朋子
この作者の作品はいつも、情景や周囲の音、匂いなどを実に上手く描写しています。正確で繊細な観察と、丁寧な筆致。1/20分の「そのものの音」などに代表されるスケッチの力が、今回も十分に発揮されています。桜を描くとなると、つい、花びらが限りなく降りつむような満開から終りにかけてを使いたくなるところを、五分咲きのまったく花びらを落とさない桜にしているあたり描写力に裏打ちされたものだと思います。
登場する二人の人物の美醜が結構この作品世界を左右するように思うのですが、やはり美少年なのでしょうか。白石君は「もてそう」ということですから美少年なのかな。主人公はどうなのでしょう。ある種友情の枠を超えた(心の)関係が、美しく描かれていると思います。軍国主義の時代から男性間の友情や連帯間は、花の下で描かれることが多いのですが、なぜでしょう。桃園の誓いに起源があるのか、それとも、愛が死と近しい関係にあるからなのでしょうか。この作品でも、死への誘惑を垣間見せています。
筋書きは単純な話でありますが、完結した作品世界を創っていると感じました。
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