指定席

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旭 春風

 この作品の描くのは、まさに日常でありながら、現実にはあまり手に入れることのできない暖かな交流の物語です。ある意味ファンタジーなのかもしれません。
 「あ、それから新入社員を一人、君に任すから」の一文を読んだ時点で、察しのいい読者は結末を予測してしまうでしょう。しかし、それが決定的な弱点かといえば、そうとも言えないところがこの作品の持ち味です。最後に主人公がどのような気持ちになったのかが、実は最重要な点なので、その部分の描写こそが評価のポイントかと思います。結び方は、その少し前に書いた「どんな香りがしたかな」と結び付けてあり、それなりに纏まっています。しかし、もう一歩踏み込んで、どういった種類の感情なのかが描ければと思いました。同志のような連帯感なのか、全てを知り合った男女のような気持ちなのか、秘密の関係なのか、そうしたところをうまく表現できていればと思います。