飛んで飛んで

飛んで飛んで

森本孝明

(一次予選得点:15.5)

 桜島で電信兵をしていたある作家の作品を思い出しました。鹿屋の基地は確かに特攻隊の発進に使われていましたね。しかし、この作品に描かれている状態は、何か当時の状況に不似合いな印象があります。私もこのころ軍にいたわけではありませんから、正確なことは言えないのですが。
 この作品はそれなりに纏まっているのですが、主題がやや分散してしまったように思います。主人公が関口少尉なのか電信兵なのかが分かりづらくなっています。どちらかというと関口少尉のことが中心です。本来、この作品の味は、死んでゆくものを送り出さなければいけない、そして戦後も生き続けている電信兵の気持ちにあるのであって、それに関する言及があまりに少ないように思えます。それと、死に対する表現が何か上滑りなように思えてなりません。関口少尉の性へのこだわりは、通信兵の単なる昔話の水準に収まるようには思えないのですが。もし作者が、ある程度リアルタイムに似た状況を体験されているなら、私の考えがずれていると言わざるを得ないのですが、読者に是非事実が伝わる表現を工夫してください。
 カギカッコの閉じを意図的に省略した部分がありますが、これはさほど気になりませんでした。所期の効果をあげていると思います。