うわさ

うわさ

天津狐

(一次予選得点:16.5)

 作品を読みはじめてすぐに「神託もの」だと思いました。古くはデルファイの神託から最近はこのゲームをすると死ぬとか、このビデオを見ると死ぬ、という予言によって現実が作られていくという作品があります。メールという素材を使っていますが、これはそうした作品の一つだと思っていました。
 しかし、最後の部分に来て、実はそうではないかもしれない、と気づかされました。この作品の主題は最後の友人の言葉にこそあると思われます。この友人の言葉を言いたいがためにこうしたシチュエーションが取られてきたのです。このうわさが何によって作り出されているのかが明確にされていないので、読者に何かを訴えるにはやや弱いという憾みはありますが、社会的な事実とは体験や実証が形成するものではなく、多くの人々の確信が生み出すという面はうまく表現されています。小説としては、友人の言葉を聞いた自分の感想(たとえば、「なるほどそうだ。僕は他人事のように納得した」とか)が書き込まれた方が、据わりがいいように思います。