蝸牛の剣

蝸牛の剣

のんべ

(一次予選得点:17.5)

 一読して、時代物、という感じがあまりしない文体です。軽い素直な文体と言っていいと思います。本格的な時代物というより児童向けの読み物の味わいです。
 この作品は剣豪小説の形を取っています。剣豪小説は単なる闘いの物語ではありません。個人の「生き方」(あるいは「死に方」)が「剣」に表れるところが醍醐味です。この作品も、対照的な二人の遣い手を登場させて読者をよく引き付けています。途中でどちらが勝つのか見えている部分もありますが、最後までその戦いの行方を注目して読みすすめました。
 決着の要因がこの小説の主題になるのですが、残念なことに前半との関わりがやや分かり難くなっています。正二郎のどういう哲学が、鷹之介のどういう哲学を打ち破ったのかが、明確ではありません。読み終わったときに前半の「正二郎は、山寺に篭った。誰にも会わずに、独りで刀を振り続けるためだ。 鷹之介は、城下を離れて江戸ヘ出た。知り合いのつてで、町道場を渡り歩いて、己の技に磨きをかけるためだった。」が生きてくるような構成であるべきだと思われます。それが、この種の作品に必要な爽快感を切れの悪いものにしているように思います。