「もう疲れたのよね。このままいっても結婚できるわけでもないし」 結子は、いつものウインナコーヒーをちびちび啜りながら言う。 彼女のつき合っている男に、私は会ったこともない。会社の上司で あること、妻子がいるということだけ知っている。つき合いはじめ たばかりだというのに、結子はもう別れようとしている。彼女の話 を聞くのは気が進まない。 「相談に乗ってくれる人もいるんでしょう」 「そうなの。会社の同僚なんだけど、親身になってくれて」 だと思った。三ヶ月前にフリーターの彼と別れるときに相談に乗 ったのは、件の上司だ。新しい相談相手が見つかると前の男と別れ る。結子は楽しそうに呟く。 「私って、男運がないのかしら。碌でなしにばかり出会って。恋愛 に不器用だから騙されやすいのかな」 彼女とつき合う男の女運の方がよほど無いのではないか、と思う。 結子はそんな私の思いをよそに話し続けている。 「あんたはいいわよね。達郎君って誠実そうだし。私は一生ああい う男には巡り合えないのよね。私もどうにかしなくっちゃと思って さ。今度、達郎君に相談に乗ってもらおうかと思っているんだ。マ ジで。構わないよね」 絶対に駄目。聞こえないように小さく呟いて、ウバ茶を呑み下し た。
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