瑶子と過ごした頃

                              

  扉を開くと微かにラジオの音が聞こえる。居間の卓袱台に突っ伏 

 して、瑶子は眠っていた。発泡酒の空き缶が二つ。皿に少しの枝豆。 

 スーパーの茶色い紙袋に結構な量の莢が入っている。広げられた販 

 売士試験のテキストは、まだ昨日と同じ辺りだ。仕事が終ってから 

 勉強なんて、土台無理なのかもしれない。学生の僕の忙しさとは違 

 う。四捨五入すれば僕と同じ二十歳だというのに、閉じた瞼の辺り 

 が痛々しい。化粧も落とさずに、白いブラウスとタイトスカートで 

 眠り込んでしまった瑶子の右の目頭は、涙が微かに浮いているよう 

 に見えた。 

  そっと近づくと、汗と化粧の混じった匂いがする。長く形のいい 

 足がだらしなく放り出されている。 

 「愛してる」 

  そう言って耳朶を唇に挟むと舌で弄る。左手で躯を支えながら、 

 右手を胸のボタンに伸ばす。微かに生ぬるい酒の匂いが狭い唇の隙 

 間から漏れた。何かを言おうとする瑶子の舌を、素早く受け止めて 

 絡め上げる。じゅくじゅくと唾が鳴る。畳へ倒れざまに、フロント 

 ホックをはずしてむしゃぶりつくと、瑶子は慈しむように僕の背中 

 に手を回した。着痩せする瑶子の豊かな胸は、とてつもなく柔らか 

 い。 

 「ごめんよ」 

  胸に顔を埋めるといつも僕はそう言ってしまう。彼女がそれを好 

 まないのは十分に知っているのだが。より一層腕に力を入れて抱き 

 しめてくれる。窮屈なスカートを引き摺り下ろすと、ストッキング 

 の腿に頬擦りながら尻を撫でる。 

 「脚が好きなのね」 

 「いや、瑶子さんの脚が好きなんだよ」 

  言いながら、ストッキングごと下着を取去る。押し潰されていた 

 陰毛がふわりと持ち上がった。瑶子はふっと笑って、僕の後頭部に 

 手を添えて自分の股間に押し付ける。夢中で舌を使う。敏感な太股 

 がぴんとして、僕を締めつけた。舌を退き、またそっと這わせる。 

 くじる様にして、また吸いたてる。いつの間にかペニスに手が伸び 

 ている。僕の上に彼女が乗ってしごくように吸いたてる。僕が我慢 

 しきれなくなった頃、さっと身体をこちらに向け僕を躯の奥に呑込 

 む。 

  激しく身体を揺らしながら、自分の快感を探っている顔は、妙に 

 子供じみて愛しかった。僕を跨ぐ脚は、下から見るといっそうすら 

 りとして綺麗だ。思わず腰に手を添えて律動を支える。 

 「結婚しようか」 

  顔中に優しい笑みを浮かべて、躯を倒すと僕にくちづけした彼女 

 の目には、今度ははっきりと涙が見えた。彼女をそっと包み込む様 

 に抱いて僕は射精した。