【放射線取扱主任者受験の動機】

  熱処理係長、鋳鍛造専門係長の後、鋳造・鍛造・熱処理の技術スタッフの係長職
「鋳鍛課主任」を拝命することになりました。
  これら鋳造・鍛造製品のうち、重要なものは、X線検査、あるいは肉厚の大きいも
のは、さらに強力なγ線検査が行われていました。
  このようなX線検査の作業には、「エックス線作業主任者」の資格が必要であり、
γ線検査には、後に「ガンマ線透過写真撮影作業主任者」の資格が必要になりました。
(法改正)

  さらにγ線を発生する放射性同位元素(この場合は、密封されたセシウム−137)  
を取り扱うためには、放射線取扱主任者の選任が必要でした。
  次のターゲットを、この放射線取扱主任者に向けたわけです。

【受験対策など】
  昭和45年に、エックス線作業主任者試験につづいて第2種放射線取扱主任者試験
を受けました。
  その年は、第1、2日目(この年は8月26、27日)に第1種放射線取扱主任者
試験、第3日目(8月28日)に第2種放射線取扱主任者試験が行われました。
  残念ながら、前年に熱管理士試験で1科目を落としていたので、この年にその受験
をすることにし、その試験日(同8月27、28日の第1日)が、第1種放射線取扱
主任者試験の第2日目とかち合っていたため、第2種放射線取扱主任者試験しか受験
できませんでした。

  同じ事業所内に、第1種放射線取扱主任者試験に合格した方がおられると聞き、講
習テキスト等を見せてもらいましたが、大変なボリュームで、短時間でこなせる自信
がわいてきませんでした。
  そこで、書店で求めた参考書だけに頼ることにしました。
      『放射線概論』      石川  友清編  (株)通商産業研究社発行
      『放射線取扱主任者試験問題集』    (株)通商産業研究社発行

  試験課目は、第1種と第2種では難易度に相当の開きがあります。
  『放射線概論』の付録に「放射線関係法令集」がありました。
  この試験が準拠する、いわゆる《障害防止法》等の関係法令が収録され、さらに
《原子力基本法》も抄録されていました。

  原子力基本法は、「原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来に
おけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興を図り、もって人類社会の
福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする」とうたわれています。

  オイル・ショック、トイレットペーパー騒ぎを体験すると、「エネルギー資源の確
保」の重みは、十分に理解できますが、「もはや戦後ではない」への過渡期にうたわ
れた点でその先見性と高遠な思想に敬服させられます。
  当時は、戦後復興の時代で、鉄・石炭の不足が切実であり、とくに石炭重視の「傾
斜生産方式」がとられたという背景がありますが。

  やはり、この時期に科学技術行政に関与された前田科学技術庁顧問殿の講演を聞か
せていただく機会に恵まれましたが(昭和60年  技術士全国大会  奈良ホテル)、
高い理念に感銘を受けました。
  政治とは、駆け引きに終始するもの、汚ないものとの印象が底流にあるなかで、こ
のように高遠なものに触れると、救われる気がするものです。

  これも余談ですが、戦後の漫画界に一石を投じられた手塚治虫氏の「ロック冒険記」
を雑誌『少年クラブ』で、発売を毎月首を長くして待ちつつ、読み耽ったものです。                                        
  大団円で、舞台となったディモン星で、主人公・ロック少年の死を迎え、立ってい
る少年達の眼前にひろがる海がすべて石油でした。
  まだ中学生ではその意義がピンとこなかったのですが、その後だんだんとその大き
さがわかってきました。

  この資格を取り、原子力発電所に出張する作業者への教育なども担当し、自らも見
学の機会に恵まれると、「原子力の平和利用」の意義と使命、それに関与できること
の幸せのようなものを実感しました。

  さて、法令の勉強は、例によって法律、政令、規則、告示と細かい規定を追いかけ
て行き、全体を理解するようにしなければなりません。
  放射性同位元素の使用、貯蔵、販売、廃棄について技術上の基準や施設の適合基準
等々を勉強しました。

  すでに、危険物取扱者や高圧ガス製造保安責任者、さらに衛生管理者等の試験のた
めにした、この種の勉強はある程度、経験済みともいえました。
  管理技術、測定技術や物理学、化学、生物学の放射線に関するものについては、前
記の参考書と問題集で勉強しました。

  エネルギーの単位、質量を含めたエネルギー保存則、原子構造、原子核構造、放射
線各論(α線、β線、γ線、中性子線等、その物質との相互作用、放射性崩壊)、ガ
イガーカウンターや電離箱、フイルム・バッジによる測定および管理技術、放射線の
生体に与える影響、それらの単位、すなわちレントゲン、ラド、レム等々がその内容
でした。

  現在では、計量法の改正により計量単位が例えば、レムがシーベルトなどというよ
うに変わっていますが。
  あまり苦痛感もなく、3日間で二つ受験した熱管理士(前年度1科目落第のリカバ
リー)とこの第2種放射線取扱主任者に合格することができました。

  その後、数回にわたって第1種放射線取扱主任者試験に挑戦しましたが、どうにも
歯が立たないようで一旦は諦めました。
  試験制度が改訂された昭和56年にも、受験しようか断念しようかと迷っていまし
た。
  実は、マイカー出勤の途上で聞いたラジオの星占いが受験を決意させたのです。
  新制度による放射線取扱主任者試験願書の消印有効の締切日の「星占い」が「思い
立ったが吉日」のような内容でした。
 そこで、定時までの仕事を終えて、夜間まで開いている郵便局に駆けこんで受験願
書を提出した次第です。

  参考書は前述の改訂版を購入しましたが、それぞれ第1種用と第2種用に分けられ
ていました。
  当日の試験は、部下2人と一緒に、私は有給休暇で受けました。試験が終わってか
ら、屋上ビヤガーデンで雑談しているとき、この試験の印象として「以前の制度で、
第1種は全く歯が立たない気がしていたが、この程度なら、もう少し勉強すれば届く
可能性がある」ということで一致しました。実際には、3人とも合格でした。

  試験そのものは、多少易しくなったかもしれないのですが、資格取得までに5日間
の実習を受けなければなりませんでした。ここでも、レポートや試験にしっかりと対
応しないと落第になるとおどかされ、気が抜けませんでした。
  実習修了後の感想に、仕事が非常に忙しい中での5日間は痛いと大分クレームをつ
けましたが、振り返ってみると、ペーパー・ドライバーでない実力が備わったことは
有意義だったと思うようになりました。
  熱心に実習指導していただいた日本原子力研究所の各位に、お詫びとお礼を申し上
げたいと思います。
  後日、金属表面処理の研究に、アイソトープを利用させていただけないかと問い合
わせましたが、懇切に回答とアドバイスをいただきました。

【放射線取扱主任者の選任、その他】  
  鋳造・鍛造部門、それに熱処理部門の一部が、別会社となって新工場を設立し、転
出しました。
  開発部門に移り、しばらくして実際に、放射線取扱主任者に選任され、安全衛生専
門委員会の一つである「放射線専門委員会」の委員長も務めることになりました。
  原子力発電所に出張する人、工業製品や部品をエックス線検査する人、アイソトー
プを内臓する計測機器を用いて研究開発を推進する人を対象に、自ら作成した『放射
線安全心得』のテキストを用いて、安全衛生教育を行ってきました。

  テキストには、開いたページの右半分に学術的な内容を、左半分には理解しやすい
ようにモデル化・図表化した内容を配置する等の工夫を凝らしました。
  「放射能」と「半減期」を、タマを打ったら壊れるモデルガンを引き合いに示した
部分、水素原子の古典的イメージを、甲子園野球場のホームプレート上に原子核(陽
子)を置き、電子軌道を円軌道から楕円軌道で内外野、スタンド、場外にひろがるよ
うにしたモデルの例で示しました。
  後者は、盆休みに、甲子園野球場に近い自宅で高校野球の大歓声を聞きながらまと
めたものです。

  話題として、1グラムのウラン235(235U )が原子核反応によって、ドラム缶
10本分の重油に相当するエネルギーに変わること、エジプトのミイラが何千年前の
ものかを、炭素14(14C)の放射性崩壊から推定すること等も引用しました。
  放射線の応用例として、工業用X線検査装置、γ線検査装置、ガスクロマトグラフ、
原子力発電等を紹介しました。
  人体が、その構成物質として放射能をもっていること、食物、大地、大気からもあ
る程度の放射能の影響を受けていること、「放射能ゼロ」はありえないことを図で紹
介して、いたずらに恐怖にかられることのないように、かといってあまりに安易に考
えず、放射線障害の防止のためのルールは確実に守ることを強調しました。


  放射線の利用は、もう生活と切っても切れない関係になっていますが、不用意な取
扱いをすると災害につながるおそれがあることは、電気と同じであるとの認識をもっ
て、メリットを享受し、デメリットは極力排除すべきであることを説きました。

  なお、事業所の放射線管理の一環として、診療所のレントゲン検査に関する漏洩線
量、つまりエックス線がどのくらい漏れているかを定期的に測定しました。不定期に、
さらに詳細な測定を行ったこともあります。
  ありえないことですが、この程度のエックス線でも、人が1万時間もの照射を受け
ると死に至るでしょう。
  医者のハシゴ、それもレントゲン検査のハシゴ、とくに幼児のそれは避けるに越し
たことはないと思われます。

  一時、カラーテレビからのエックス線が問題になったことがあり、パソコンCRT
などを含めて、VDT作業に関わると奇形児が生まれるなどと騒がれたことがありま
すが、自然界からの放射線の百分の一程度の微量に抑えられていて、放射線そのもの
は全く心配ありません。

  アイソトープの応用として放射線取扱主任者の知恵で、めっき層から生成するウイ
スカー(ひげ結晶)の研究に際し、ウイスカー成長のための物質はどこから供給され
るかを調べることを検討しました。
  実験に用いるとすれば、どのくらいの量を、どの位置に、どんな方法で入れるか、
さらに、そのための法規制はどうなっているかがキチンと読めます。
  実習でお世話になった日本原子力研究所の方に、いろいろ相談に乗っていただきま
した。このような発想ができ、どこに相談すればよいかがわかるのも、この資格のた
めに勉強したおかげといえます。
  この場合は、結局アイソトープの利用を断念し、代わりに別の元素(非放射性)を
添加してユニークな結果が得られています。

  高温超電導の後、常温核融合がフィーバがありました。
  純粋に核融合で、床が焦げる程の熱が発生したのなら、室内にいた人は致死量の放
射線を浴びた筈であり、「虚」にとらわれるべきでないと思っていました。ただし、
真に科学的に、地道に核融合の研究をしている人々の報もあり、救いでした。

  放射線取扱主任者として、科学技術庁へ書類を持って説明に行ったり、放射線専門
官の立ち入りに立ち会ったこともあります。
  ソ連の人工衛星から原子炉が落下するという時期で、放射能を業とする共通の立場
で話題にしたことを覚えています。
  放射線教育を通じて、あるいは放射線管理に尽力することによって、事業所におけ
る放射線障害の防止には、大きく貢献してきたと自負しています。


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