『螺旋』の儂的解釈を試みる

 ヨンヒシマ。飛空挺の低いエンジン音とマシンのビープ音をバックに、溜息混じりのバリトンヴォイスでつらつらと語ってしまいたい気分になる今日この頃、皆さん『FFXヴォーカルコレクション』はもうお聴きになりましたか?ここではあの詩の朗読の解釈を儂なりにやってみようかと思いまする。

 まず、monologueの語りから。つか、アレは解釈も何もなく、ストレートにそのまんま受け取れば良いのですが。のっけから『ブラスカ、ジェクト。』で始まり、『今なら言えることもある。…』以下に続く言葉は、やはり10年前の出来事が渋殿を現世に繋ぎ止めている楔となっている、という事実の再確認をさせられた気分。生者であれば扉一枚隔てて騒いでいる若者達と一緒になって未来に目を向けることもできるだろうところを、死者故にどうしても過去に縛られてしまっているというか。で、『楽な旅ではなかったんだ』あたりから、段々と怨嗟混じりになっていくように感じるなあ…。そして後に続く『力づくでも』『過ちを認めさせてやろう』『覚悟しておけ』あたりは何やら陰にこもって凄まじい限り。特に聴いててキたのは『全部俺に押し付けて、逝ってしまったあんた達に…』の太字のあたり。このへんの凄まじさはやっぱり死人ならではの語りだと実感。

 『今日こそが、お前の最後の始まり』で始まるreading『螺旋』。これ、もしかして『リング』の続き物ですか?今もエンドレスリピートで聴きながらこの文章書いてますが、ヤバいです。これ、夜中に聴くものじゃないッス。ノーマル音質で聴くと渋殿の声がヒアリング不能になることがあるので、音質を調整して重低音強調モードにしてるんですが…。この腹の底に響くBGMでこの鬼気迫る語りは午前3時丑の三つ時に聴くとそれこそアーロンに取り憑かれた気分になります。むしろ取り殺されて本望ですが

 最初のピアノのフレーズは『召喚獣バトル』のメインフレーズだと気付いておおッと思いましたですヨ。ラストバトルの曲を初めに持って来るのが正に『最後の始まり』だなあ、と。しかし、渋殿。言ってることが哲学的すぎて訳が分からず。流石はエボンの僧兵、禅問答ときたか!と妙なところでうなってしまいましたヨ…何回も聴き直して意味を汲み取ろうと頑張ってみたんですが、こりゃあネット各地で『分からねえ!』という声が上がるわけだ。そもそもこれは誰に宛てて語られているメッセージなのかが問題ですよネ。つまり、詩の中に常に仄めかされる『お前』とは一体誰なのか、ということで。

 個人的に、この詩はティーダに宛てた渋殿のメッセージかと。なので、『お前』は基本的にティーダを中心にしたジェクト父子のことかと思ってまする。ただ、『お前』で指し示されている対象全てがティーダのことだとは思ってないです。時々ジェクトのことも指してると思うのデスよ。ティーダをあてはめると話が通じなくなる箇所もいくつかありますしネ。『蜘蛛の巣のような人間形成の迷路に迷い込』んでるのはティーダ。『お前の代わりに払わなくてはいけなくなった世界の代償』の『お前』はジェクトじゃないでしょうか。渋殿はジェクトとティーダを父子一括りで呼んでると見ましたよ晏嬰さんは。『世界』は基本的にスピラを指す語と見て間違いないかと。で、『奴』『奴ら』は旧来の秩序を守ろうとするもの、即ち螺旋の存続を願う者たち全般のことでしょう。何故『お前』が基本的にティーダだと思ったかというと、

『雲が裂け、空が開けて、
 秩序という世界が、その忌々しい手を差し伸べる
 未熟な神経を消すために、俺の存在を確かめるために。
 その魂を、愛で満たせ』

という部分からが怪しいと踏んでます。ティーダの『物語』の始まりに、実際に雲が裂け、空が開けて、秩序という世界からの使者『シン』がその忌々しい手を差し伸べ、秩序に縛られた世界にティーダを導いたわけですよネ。『シン』がティーダをスピラに導いたのは、『未熟な神経を消すため』=ティーダの精神的成長のためであり、また、『俺の存在を確かめるため』=渋殿が若い世代の道標としての役割を果たすためだったということだと思ってまする。ティーダの心の成長の過程で、その魂が愛で満たされたことは…と考えると、ありましたね、ユウナんとマカラーニャ湖でピュアなキス。で、それは最終的にティーダ自身の消滅にも繋がる『最後の始まり』であった、と。

『生きるには完璧だが、戦うには未熟すぎた
 お前が夢から覚めた時、この古臭い世界は生まれ変わる
 お前の完璧な世界へと』

このくだりもティーダのことだろうと思ってます。夢のザナルカンドで生きて行くには充分すぎる程の名声も、17にしてもう手にしていたティーダ。しかし、スピラで真実と向き合って戦い抜くには未熟すぎたということなのでしょうな。そして、ティーダであることの決定打が『お前が夢から覚めた時』の『夢』というキーワード。もし、ここで言われている『お前』が『エボン=ジュ』や『祈り子』だとすると、それ以下に続く『お前の完璧な世界へと』に意味が通じなくなると思うのデスが、これが『ティーダ』だとすれば、『お前』の目指した完璧な世界に、死の螺旋に囚われたこの古臭い世界は生まれ変わるだろう、というふうに通じると思うのデス。ラストで、

『無秩序が手を結び、あらゆるものが実を結ぶ
 俺は、そいつを見逃すわけにはいかない』

と言っているのは、『秩序』に支配された『世界』に対応する『無秩序』、つまり、死の螺旋を断ち切ろうとするティーダたちのしてきたことが、これからいよいよ結実しようとしているという渋殿なりの予感か。その機を逃すことなくティーダたちを導くのが、『俺』=アーロンの役目なのだろうと解釈してます。

 …どんなもんでしょう。儂の持てる国語能力を無駄に総動員して渋殿の禅問答に挑んでみましたが、回答としては冗長過ぎて失格かも知れん(苦笑)。いやはや、とにかく『鬼気迫る』という形容詞が一番しっくりくるトラック11、12でした。ところでこのトーク、ふと気がつけば何の因果か運命か13番目の語りスフィアとなっておりました。やはりきちんとしたエボン寺院で死人憑きのお祓いなどをして貰った方が良いやも知れませぬ、儂。