■祈る手■
■幻水5のオープニングから数時間くらい前の出来事、を、イメージ。
ロードレイクへ向かう船の上で、ゲオルグとこんな風におしゃべりしてて欲しいv
いつも隣にいて、王子を見ていてくれる黒い騎士に、妄想爆発です(笑)
↓縦にスクロールさせてお読み下さい
まだ育ち切らない、小さな手を組んで。 「何を、祈ってるんだ?」 フェイタス河を渡る船の上。 程良く水気を含んだ心地よい風に吹かれながら、そういえば王宮でも、何度か王子のこんな姿を見かけた事があったなと、ゲオルグは思い出す。 今回のこの、ロードレイク視察の任を言い渡されてからというもの、王子がずっと塞ぎ気味だった事も気がかりだったので、お節介を自覚しつつも、つい、声を掛けてしまったのだった。 「あ・・・」 不意に声を掛けられて驚いたのだろう。王子は少し慌てたように顔を上げた。 同乗しているリオンとサイアリーズは、揃って船首の方で景色を眺めている。賑やかな2人が離れた場所にいることで、王子は少し油断していたのかもしれない。 そう思うと、ちょっと可笑しくなった。 (そうだな。俺は隣にいても、いつも黙っているからな) ゲオルグが視線を水面に戻すと、それを待っていたかのように、少年はゆっくりと口を開いた。 「・・・平和を、祈って」 「・・・平和?」 随分と抽象的な単語だ。オウム返しに訊ねると、王子は小さく笑った。 「・・・ううん、ちがう。本当は、そんな殊勝な願い事じゃない。」 白銀の髪を揺らす風に向かって、深呼吸の息を、吐き出すように。 「どうかもうこれ以上、母さんが変わってしまいませんようにって」 ―――それは恐らく、少年の切なる願いなのだろう。 ゲオルグは黙ったまま、王子が語るに任せる。 「僕は本当に無力だから。毎日こうして、フェイタス河に向かって祈る事しかできないんだ。…可笑しいでしょう?」 そう言いながら、王子はまた、祈るようなポーズをしてみせた。 瞳を伏せると、長い睫毛が深い陰影を作り上げる。 綺麗だ、と、ゲオルグは場違いな事を思い、瞬時にその感情を打ち消した。 「力が、欲しいか?」 ―――どうして自分はそんな事を問うたのだろう? 口に出たのは、非道く無意味な問いのように思えた。少し王子を、試してみたくなったのだろうか。 すると王子は驚いたように目を見張り、間を置いてから、少しだけ首を傾げた。 「ゲオルグは、僕にそれをくれるの?」 ……逆にこちらを試すような事を言う。ゲオルグは内心、舌を巻いた。 …そうだな。俺が与えられるようなものであるなら、非力だと嘆くお前に、とうの昔に与えてやっている……。 ゲオルグは黙っていたが、聡い王子は、初めからその答えを分かっていたハズだ。 少年は僅かに頬を緩めて、今度は素直に最初の問いに戻った。 「ロードレイクを焼いたような力≠ネら、僕は要らない」 …それは正しい。 ゲオルグは内心で、王子を褒めた。 そんな力がもう一つあったところで、誰も救えはしない。力で力は、律せない。 「ただ僕は、皆を…母さんを守れるだけの力が、あればと思って…」 「あるじゃないか?」 「…え?」 あまりにあっさりと告げたせいで、真剣さが伝わったかどうかは、疑問だった。 けれどもそんな事には構わず、ゲオルグは淡々と続ける。 「少なくとも、俺などよりもずっと、強い力が」 王子は益々訳が分からなくなったというように、視線を彷徨わせた。 だってゲオルグは僕よりずっと強いじゃないかと、そう言いたげに。 ゲオルグはふっと笑みを漏らした。 それがいつもの皮肉めいた笑いでは無いことに、自分でも驚きながら。 「お前の祈りは、女王の心に届く。そしてそれは、彼女の救いになる。 俺には、決してできない事だ」 「ゲオルグ…」 ほんの少し、蒼い瞳が揺れた気がした。 普段滅多に、感情を露わにしない瞳。もっとその奥を知りたい、と、その時、心の一部が渇望した。 …妙な気分だ。 「自分を無力だなどと、言うものじゃない」 我知らず、声に力が篭もった。 どうやら自分は心の底から、目の前のこの小さな少年を、元気づけたいと思っているらしかった。 ・・・俺は、こんな柄だっただろうか? 「うん。ありがとう…」 柔らかそうな唇の端を少しだけ上げて、王子は笑顔を作った。 今の言葉を本気に受け取ってくれたかどうかは分からないが、王子が微笑んでくれたことに、ゲオルグは少し、満足した。 …けれども彼には、予感のようなものがあったのだ。 (王子の願いは、きっと叶わない) それは、彼がこの国にやって来てからずっと、感じ続けていた事。 女王はいつか、正気を失う。愛する者の声も、きっと、届かなくなる……。 けれども、それを誰の前でも、口にしなかったのは… 決して、哀れんだからでは、ない。 ……愛おしかったのだ。 一心に女王を支えようとする、彼女の家族≠ェ。 「王子!ゲオルグ様!もうすぐ到着ですよ!」 船首の方から、いつもの大きな声でリオンが告げる。 …願わくば、もう少しの間だけ、彼らに安息の日々を。 フェイタス河の美しい水面に向けて、ゲオルグは心の中で祈りを捧げた。 彼は無神論者だったが、そうせずにはいられなかったのだ。 王子が小さな手で一心に捧げた願い事を、ほんのひと掬いでも、この場に留めておきたかったから…。 【END】
入
り口へ戻る