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タレントクリフ&大学生フェイトパラレル「シークレット・ラブ」 第1話 『恋に落ちる1on1』
「午後3時から、カフェ『サーフェリオ』で打ち合わせですからね。分かりました?クリフ」 そう言って、すらっと背の高い美しい女は、部屋の隅のソファを振り返った。 「…あぁ、分かった分かった」 ソファに深々と身を沈め、パラパラと雑誌をめくっていた体格の良い男は、女の方に目もくれずに軽い口調で応える。 そういった態度が彼の常であったから、女は大して気にも留めない様子で、手にしていた手帳を鞄の中に仕舞った。 「私はこの後少々雑用がありますから、先に行ってて下さい」 「オーケイ」 「くれぐれも、目立った行動は慎んで下さいね。貴方の正体が知れたら、大騒ぎになるんですから」 「分かってるって。くどいぜ、ミラージュ」 ミラージュと呼ばれた女は、やれやれ、というように深い溜め息をついて見せた。 「この間駅前で大声でタクシーを呼んで、駅前広場を大パニックに陥れたのはどなたでしたっけ?」 大男は顔を顰め、 「………嫌な事覚えてやがるな」 「普通、覚えています」 男は持っていた雑誌を無造作にテーブルの上に放り、ようやくミラージュの顔を見た。 「……もうあんなヘマはしねぇよ。第一、あれだってタクシーの野郎がちゃんと止まらねぇから悪いんであってだな……」 「クリフ」 こほん、と一つ軽い咳払いをして、ミラージュは彼の名を呼んだ。 「その言い訳は、もう何度も聞きましたが?」 こういう取り澄ました物言いをする時のミラージュには、何を言ってもムダだ。 経験上それを熟知しているクリフは、それ以上言い返す事を避けた。 まあ、常に取り澄ましている女ではあるのだが……。 「では、午後3時に」 そう言い残して、彼女は扉の向こうに消えた。 クリフはふうっと一つ溜息をつき、壁の時計に目をやる。 午後1時40分を回った所。 「早めに行って、一服してるか」 彼はそうひとりごち、ゆっくりとソファから立ち上がった。 身長196pの、均整のとれた逞しい身体つき。 今は黒のノースリーブとピッタリとしたスラックスに身を包み、身体のラインが見目に明かとなっている。 ……誰しもが、つい見惚れてしまう程の。 実際彼は、モデルの仕事も幾つかこなしてはいたが、それが主という訳ではない。 今やテレビCMからドラマ、映画に至るまで、引っ張りだこ。 最近では、CDリリースの話まで持ちかけられている。(これに関しては歌唱力云々というよりも話題性だ) もはやタレント『クリフ・フィッター』の名を知らぬ人間など、恐らくこの国にはいないのではあるまいか。 彼はそれほどの人物なのであった。 と、そんな人気タレントとなった彼なのであるが、元々は、芸能プロダクション『クオーク』の設立者であり、 つい3年ほど前までは社長として仕事をしていた、いわば普通のサラリーマンであった。 ところが『クオーク』所属のタレントは皆3流ばかりで、一向に売れる気配が無く、3年前には事務所の存続すら危うくなってきていた。 そんな折り、彼の片腕として働いていたミラージュからある提案がなされた。 『クリフ、あなたをタレントとして売り出せば成功すると、私は思うのですが?』 そのあまりに突飛な提案に、最初クリフは冗談だと思った程だ。 当時彼は既に33歳を回っていたし、とても自分は芸能界などに売り込める人材ではない、と、即座に却下したのだが……。 『いいえ、貴方なら25歳でいけますよ』 ……マジか!? 彼は大慌てでその場に居合わせた他の社員達を見回したのだが、皆一様にうんうんと肯いている。 こいつら、ミラージュに催眠術でもかけられてるんじゃねぇか!? 彼は半ば本気でそう疑ったが、結局社員全員一致で(社長のクリフの意志は完全に無視で)クリフ・フィッター(25(大嘘))は、 タレントデビューを果たすことになってしまったのであった。 それからはとにかく凄かった。 彼のマネージャーに就任したミラージュの手腕と言うべきなのか、売り込み方は絶妙極まりなく、 デビューしてからたったの1年で、『クリフ・フィッター』は瞬く間に全国にその名を轟かせる大スターに成長してしまった。 これにはクリフ自身が最も驚愕したのだったが、ミラージュは澄ました顔で、 『ね?だから言ったでしょう?』 と、事もなげに言ってのけるのだった。 クリフとしては、自分が設立した『クオーク』が軌道に乗るのであれば万々歳であるし、とりあえずミラージュに全てを任せる形で、 今日まで芸能生活を送ってきた。 ただ、実年齢を8歳もサバ読みしていることには、多少の後ろめたさを感じているのだったが。 ともあれデビューから3年、既に『クリフ・フィッター』の人気は不動のものとなっている。 (――――そういえば、さっき読んでた雑誌で、『抱かれたい男ナンバー1』とかに選ばれていたっけ。俺も大したもんだ) とまあ、そんなこんなであるから、街で彼の正体が割れようものなら、大騒動に発展してしまうのである。 それだから何かと行動しづらく、窮屈に思うことも度々なのだった。 ソファから立ち上がった彼は、大きく一つ伸びをして、壁に掛けてあった上着を取った。 ゆったりとしたグレーのそれは、黒いノースリーブをインナーにすると、これまた彼によく似合った。 「…目立たないように、ったってなぁ」 壁の姿見に目をやりながら、やれやれと彼はぼやく。 この長身ばかりはどうしようもない。何しろ2メートル近くあるものだから、とにかく人目を引いてしまうのだ。 以前ならそれはなかなか気分の良いものだったのだが、タレント『クリフ・フィッター』となった今では、 行動しづらさに拍車を掛ける厄介なものでしかなくなっていた。 今日何度目かの溜め息をつき、彼はテーブルの上に置いてあった小洒落たサングラスを手に取った。 普段の彼なら、サングラスなど、天地がひっくり返ろうとも掛けようなどと思わない代物なのであるが、 とにかく今は、外出時、顔を隠す手段として欠かせないものとなっている。 しかし、その姿もまた、彼に良く似合うのだった。 取り敢えずの装備を整えると、クリフは部屋を出た。 午前中撮影のあったテレビ局が控え室として用意してくれた部屋だったのだが、なかなかどうして、良い部屋だった。 ――――VIP待遇ってヤツか? ……悪い気はしなかった。 カフェ『サーフェリオ』は、テレビ局から目と鼻の先、近くに緑地公園を臨む、なかなか雰囲気の良い店だった。 番組の打ち合わせなどで、度々利用する店だ。 午後2時を少し回った程度の時間帯であるためか、店内は客の姿もまばらで、閑散としていた。 別段、店に入って来たクリフに注意を向ける者もいない。 彼はとりあえずホッとして、窓際に席を取った。 午後3時から始まるという打ち合わせは、確か、今度出す写真集関連のものであると、ミラージュは言っていたか。 まあ、適当に相槌をうっておけばいいだろう。 コーヒーと軽食を注文し、彼はぼんやりと窓の外を眺める。 良く晴れた気持ちのいい昼下がりだった。 街を行き交う人の群れは総じてせわしなげであったが、それを通り越した先に視線を向けると、 のんびりとした雰囲気の緑地公園が広々と横たわる。 公園内を散歩する老女や、走り回る子供達。 彼らを眺めつつ、クリフは我知らず微笑する。 昔から、子供は好きだった。無邪気で、純粋で、彼が身を置く世界には存在し得ないものを、彼らは沢山持っている。 それが、愛おしくもあり、羨ましくもある。 ふう、と、彼はまた溜め息をついた。 (……少し、疲れてんのかもな) 緑地公園内では、数人の学生らしき少年達の姿も見受けられた。6人程度だろうか、3対3でバスケットをしているようだ。 平日のこの時間だ、恐らく大学生であろう。 (いいご身分だな) クリフは見るともなしに、彼らに目を向けていた。 と、一人の少年がシュートを打った。 ボールは綺麗な弧を描き、すっぽりとゴールのリングに吸い込まれる。 (いいフォームだ) クリフは思わず、シュートを打った少年を絶賛してしまっていた。 それほど、少年のフォームは見事で、華麗だった。 見たところほっそりとして、まるで女の子のような可愛らしい容姿をしているのだが、 彼のプレーは他の誰より光っており、確かな実力を感じさせた。 ドリブル、パス、シュート。 機敏な動きで走り回るたび、その少年の鮮やかな蒼い髪が風に揺れ、日の光に反射してキラキラと輝く。 綺麗だ、と、クリフは無意識にそう思った。 彼はしばし惚れ惚れとその少年の動きを目で追っていたのだが、やがて意を決したようにすっくと立ち上がると、店の入り口に向かった。 久々に、血が騒ぐ感じを覚えていた。 「あ、お客様、お会計……」 レジを素通りしようとした彼を、女性店員が慌てて呼び止める。 「あー、またすぐ戻ってくっから、後でな」 「そ、そんな、困ります!」 クリフは面倒くせぇな、と言わんばかりに顔を顰める。 目の前にあんなに楽しそうな事が待ってるってのに、そんなのに構ってられるか! こういう時の彼は、とにかく自分優先で、後先を考えない。 彼は掛けていたサングラスを少々ずらし、青い双眸をレジの女性に向けた。 「あっ!」 女性は息を呑む。 「ク、クリフ・フィッター?」 「……そゆこと。これから打ち合わせがあっから、絶対戻ってくるよ」 そう言うと、彼はにこりと笑った。 レジの女性は殆ど陶酔状態だ。 「あ、後でサイン、いいですか!?」 「ああ、いいぜ」 職権乱用、とはまさにこのこと。 かくして彼は、そそくさとカフェを出て、道路の向こうの緑地公園へと向かった。 果たしてレジの女性が『クリフ・フィッター』の出現を他言しないかどうかは、甚だ怪しい所である。 「フェイト、ナイスシュート!」 蒼い髪の少年の手から放たれた、今日何度目かのシュートが、見事にゴールのリングをくぐった。 少年は嬉しそうに笑い、友人達と手を重ね合わせる。 「ったく、ずるいよなぁ、そっちはフェイトがいるんだもん」 3対3の相手チームの少年達は、揃って不服顔。 何しろ、このフェイト・ラインゴッドという少年、高校時代にバスケットのユニバーサル大会で最優秀選手に選ばれた経歴を持つ、 天才バスケットプレーヤーなのだから。 不満そうな友人達に向かって、フェイトはやんわりと微笑んでみせる。 「ごめん。手加減はしてるんだけど」 その穏やかな声は決して高圧的ではなく、いつでも場を和ませる。 相手の少年達も、つられたように微笑した。 「よし、次こそゴール奪ってやるからな!」 晴天の緑地公園内に、勇ましい声が響き渡った。 再びプレーが再開した。 相手チームは巧みにパスを繋ぎ、こちらのゴールを狙ってくる。 フェイトは自軍のゴール前で冷静に相手の動きを見つめていたが、やがて軽いフットワークで走り出し、 見極めたパスの軌道を、外すことなく手中に収めた。 「あ、またやられた!」 ボールを奪われた少年が、悔しそうに叫ぶ。 フェイトは目の前に立ち塞がった最後の一人を振りきると、一直線にゴールを目指す。 再びシュートが決まるのはまず間違いない、と、誰もが思った。 ―――が。 「俺を、抜けるか?」 不意に、目の前に見知らぬ長身の男が立ち塞がった。 「な……?」 フェイトは驚いて足を止め、取り敢えずドリブルは続けながら、突然出現したその男をしげしげと見上げた。 金の髪を風になびかせたその男は、サングラスを掛けていたため、表情を窺い知ることは出来ない。 かなり体格が良い。身長は2メートル近くあるだろう。バスケ経験者だろうか? 「誰?」 背後で、友人達が怪訝な声を上げる。 大男はちらりとそちらを見やり、 「別に何者でもねぇけど。ただの挑戦者だ。悪いか?」 最後は、フェイトに対して向けられた言葉だった。 フェイトはふっと微笑する。こういう人は、嫌いじゃない。 「いいですよ。受けて立ちます」 男も、口元を緩めた。 「気に入ったぜ、少年」 そうして、互いに戦闘モードに入る。 フェイトは慎重に、男の隙を窺った。 相手の実力が分からないので、下手に動けない。 何よりフェイトは、どちらかというとオフェンスよりディフェンスの方を得意とするため、自分から攻めていくこの状況は、少々不利だと言えた。 それがハンデになるのか、はたまた致命傷になるのか。 目の前の男の大きな体には、隙が見えない。 「どうした?かかって来いよ」 挑発するかのような相手の声。 フェイトは意を決し、男の左脇をすり抜けようと走り出した。 常と変わらぬ、機敏なダッシュ。 ところが…… 「あっ……」 次の瞬間、ボールはいともあっさりと男の手中に収められていた。 一切フェイトの身体に触れることなく、惚れ惚れするほど鮮やかな手腕で。 じっと成り行きを見守っていた友人達も、呆然となってしまっている。 「惜しかったな、少年」 ぱっと振り返ると、男はボールを手にしたままにこにことこちらを見つめている。 フェイトは急に悔しくなってきて、尖った口調で言い返した。 「『少年』じゃないよ。僕にはフェイトって名前がある」 「フェイト、か。いい名だな」 男が自分の名を呟いたその時になって初めて、フェイトは彼の声の心地よさに気付いた。 良く通る低音。そして、優しい声色だ。 「……そっちこそ名乗ったらどうなの?」 特に問い詰めるような口調にはならなかったはずだが、フェイトのその問いに、男は少々困った様子を見せた。 「俺、は………」 と、その時。 「あ!あそこあそこ!!」 不意に公園内に黄色い歓声が轟きわたり、数人の女性達がどたどたとこちらへと駆けてくるのが見えた。 「な、何だ?」 フェイトは驚いてそちらに目を向けたが、隣に立つ男の慌てようは、その比ではなかった。 「げっ!」 男はみるみる青ざめ、既に逃走モードに入っている。 「悪い、フェイト。俺はここで!」 半ば叫ぶようにそう言うと、彼は手にしていたボールをひょいとこちらへ投げて寄こした。 「な…ちょっ……勝ち逃げなんてずるい!」 ボールを受け取りながら思わずそう言い返してしまい、フェイトは自分の子供っぽさに呆れた。 と、走り出していた男は一瞬、口元に楽しげな微笑を浮かべてこちらを振り返った。 「明日」 フェイトにだけ聞こえるように、彼はそう言った。 「え?」 「明日……そうだな、午後5時。ここに来れるか?」 「えっ……うん」 「また相手してやるよ。名前も顔も、その時な」 それだけ言うと、サングラスの大男は一目散に公園の出口へと駆けていってしまった。 それを追うように、数人の女性達の群れ。 (……変な、奴) フェイトは彼らを見送りながら、眉を顰める。 いや、よく考えてみると、かなり怪しい奴だ。第一、女性に追われるとは一体何事だ? ……だけど…… フェイトは軽く頭を振って、最後に男が投げて寄こしたボールに目を落とした。 バスケ、上手かった。あんなに鮮やかにボールを奪われた事なんて、今まで無かった。 ………それに。 心に残る声だった。 フェイトはふと顔が熱くなるのを感じて、少し慌てた。 (なんだよ、これ) ごしごし、と手の甲で頬を擦る。 『また相手してやるよ』 男は、確かにそう言った。 ――――明日、また彼に会える。 そう思うと何だか心が弾むような気がするのは、屈辱の1on1のリベンジが果たせるからなのだと。 とりあえずフェイトはそう思っておくことにした。 現在、一部をマンガにしたものをウェブ掲載中^^ こんな感じになるんだ、というのをお楽しみ下さい(?) |
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